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白雪という名のドラゴン


ーーーR15は保険ですーーー




白く長い廻廊を歩くのは侍女二人を従えたこの国の王女マリアンヌ。


その姿は普段の王女然とした華やかなドレス姿とは異なり、一見すれば竜騎士のそれと見間違う装いに身を包んでいる。

形こそ似てはいるが竜騎士隊を表す章表等は無い。


あくまでも個人的に誂えた淡く明るい形式ばっていない装いは、どこか王女の女性らしい柔らかな人となりを引き立てるようなものであった。


「今日は穏やかな天気で良かったですね」


王女の少し斜め前を歩く護衛騎士もまた竜騎士の正装に身を包み王女の歩幅に合わせても尚 颯爽とした足取りに見えるそつの無い男だ。


「ええ。今日はあの子達も機嫌良く飛んでくれそう」


王城の最上階、裏手に位置する廻廊には穏やかな風が吹き抜け眩い陽の光が差し込む。


(こんな素敵な日にフィル様とお散歩なんて…)


久しぶりのフィルとの空の散歩に自然と頬が緩む王女マリアンヌは外の森から視線を前に戻した。


フィルの綺麗な背中を見つめては微笑むのは一瞬だけ。

すぐにどことなく寂しげな表情へ変わったことに気付く者は誰もいない。



今ではこの時代一の花形である"竜騎士"となったセフィルスは、マリアンヌの兄エドリックの親友にして幼馴染である。


マリアンヌが物心ついた時からまるで兄のように慕っていた彼も今や時の人。

国中の年頃の女性からは熱い視線を一身に集める聡明な騎士となり、王女のマリアンヌですら萎縮してしまう程の美丈夫な青年になっていた。


王女の初恋の彼は最早手を伸ばしたくても届かない相手となっていた。


(あと何回フィル様とこうして散歩が出来るのかしら……)


王女としての人生最後のわがままが終える日まであと数ヶ月。

それまでにマリアンヌは覚悟を決めねばならなかった。




長い廻廊の先には屋根の無い無駄に広いバルコニー。

更にその先にはドラゴン達の棲む深い森が広がっている。


『ピューーーーィ!』


先にセフィルスが笛を吹けば、森の一画がざわめいて、次の瞬間にはバサッと翼の音と共に一頭の漆黒のドラゴンが浮上して姿を現した。


それを確認すると王女も自身の笛を吹く。


『ピューーーーィ!』


人には聞こえない音の笛。

ドラゴンだけが聞き分ける笛の音に今度は真っ白なドラゴンが姿を現した。


ガツッッ!


だだっ広い石畳へと飛来してきた黒いドラゴンはバルコニーに着地するとカツカツと爪を鳴らしながらセフィルスの前まで歩いて嬉しそうに首を伸ばして甘える。


王女の白いドラゴンもまた同様だがバルコニーに着いてから王女の前に来る姿はまるでスキップをするかのような軽快さで、王女の身体に首を寄せて全身で甘える。


「白雪、今日は随分とご機嫌ね」


白雪と名付けた白いドラゴンの首を撫でようとするマリアンヌだが鼻先でグイグイと背中を押され、

『早く乗って!』とばかりに催促する白雪を笑顔で宥めた。


侍女から腰鞍を受け取り腰に巻き付けている間にセフィルスは白雪に手綱を装着させる。



「では、行ってきます」


「行ってらっしゃいませ」


二人の侍女がドラゴンから離れて挨拶と共に頭を下げると、バサリとドラゴンの翼が揺れて飛び立つ。


王女の散歩。

それはドラゴンに乗って国中を自由きままに飛びまわることだ。


「今日は東の方に行きましょう」


セフィルスのように散歩に同行する竜騎士らに異を唱えられなければどこへでも行ける。


とは言え、一国の王女マリアンヌ。

結局は空からの視察という名目も兼ね添えてしまうのは致し方ない。

空を飛来するのが主で、適当な場所で地に降りて休憩をなんてことは出来ない。

王族が無闇に民衆の前に顔を出せない時代なのだ。

ドラゴンも然り。他国との共通認識もあり稀少生物のドラゴンを捕獲等すれば即刻切り殺される。


野生のドラゴンが他国間を行き来するのは致し方ないが、飼い慣らされたドラゴンが他国に入ると簡単に殺される。


飼い慣らされたドラゴンというのは一同にして笛を持つ者から遠く離れることは出来ないのだ。

竜笛と呼ばれる笛は、ドラゴンの第2の心臓と言われている。

その竜一体一体で音が異なり、竜には自分の笛を聞き分けられる。


竜の眉間にある一枚だけ濁った色の鱗。

それを取って笛にすると飼い慣らされたドラゴンとなる。

総じて野生のドラゴンには皆その鱗が眉間に残っているので見分けがつくのだ。


ドラゴンは非常に頭が良い生物だ。

森で偶然人間に出会しても襲いかかる事は無い。

だからといって人に慣れてる訳でも無い。

全てはドラゴン次第。

どんなに屈強な男でもどんなに病弱な女でも、ドラゴンに気に入られれば眉間の鱗を取らせて()()()


なので竜騎士とは、なりたくてもなれない存在なのだ。


どの国も竜騎士を増やしたくても増やせないのが現状である。

とはいえ、この時代は安泰な時代。

国同士の戦争なんてものは120年前を最後に、今では余程の世間知らずが暴徒を起さない限り争うことは無い。

その世間知らずや竜の密猟をする輩に対しての自衛が竜騎士なのである。


そんな竜騎士も顔負けするほどに自在に飛びまわるのがこの国の第一王女マリアンヌだ。


王族の、しかも王女がドラゴンに選ばれた。それは異例中の異例だった。


雑食のドラゴン達はそれなりに大食漢だ。

王宮に隣接する森のドラゴンは大半が飼い慣らされた王国のドラゴンだが野生のドラゴンも当然いる。

その為、定期的に血抜きした家畜を森に運び入れたり、ドラゴンが好きな果実の実がなる木の手入れ等をするのは"ドラゴン遣い"の仕事だ。

騎士でなく一般人で稀にドラゴンに見初められた人は"ドラゴン遣い"となり、森の見張り番の役回りを任せられる。

広い森も相棒のドラゴンを使えば一日で見回れるからこちらも一般人の憧れの仕事だ。


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