恋はアンコントロール
「気持ちが溢れて自分でも抑えられないの」
空回っては僕に叱られる彼女が口癖のように言っていた台詞を思い出す。
僕がもっと早くそれを自覚していれば、結末は変わったのだろうか。
始まりは土砂降りの放課後だった。
「あたしと付き合って相合傘しませんか!?」
肝心の部分が抜けていて最初は告白だとも気づかなかった。唖然としつつも、下駄箱の前じゃ不都合が多すぎる。下校する生徒の流れから彼女と共に逸れた。
同じクラスではあるが席も離れていて接点のない相手だったので慎重に聞き返した。彼女はしどろもどろに告白をやり直し、不安げな瞳で見つめてきた。
「ダメ、かな?」
フリーだった僕は了承し、その日は傘を忘れた彼女を送って帰った。
「律君おはよ!」
翌日早々に教室でやらかしてくれたので、二人の交際はすぐに広まった。
バラすにしたってせめて事前に相談するよう注意すると素直に謝ったものの、
「律君には恋って呼んでほしい」
とあっさり切り替えられた時は少し不安になった。
その予感は当たり、僕は恋の彼氏兼世話係として動いた。
初デートの時は着る物を迷って遅刻し、危うく映画の上映時間を過ぎそうになった。それ以来、休日は恋の家に迎えに行った。
「律君のお弁当忘れないように注意してたら教科書忘れた」……なんてことがあってからは、毎晩メールで持ち物準備の確認をした。
夏祭りでは人ごみで恋が逸れそうになった。
「手、つなぐ?」
そう言って差し伸べれば、はにかみながらも握ってくれた。
「律君はしっかりしてて冷静だよね。あたしとか周りとかのこと考えてくれて、自分勝手なんて絶対しない。それ、すごくいいなーっていつも思ってた。憧れてるんだ。あたしは感情で突っ走っちゃうから」
恋の苦笑いの表情と浴衣姿と、繋いだ手のじんわりとした熱が印象深かった。
まっすぐに向けられる想いが心地よかった。彼女の喜ぶ姿にこちらまで心が弾んだ。
いつの間にか欲しくて堪らなくなっていた。
もっと傍にいたい。
もっと長くいたい。
もっと恋を知りたい。
恋を部屋に招いた日、密室で二人きりという状況下で僕は自らの制御を完全に失い、思うまま彼女を押し倒し今まで以上の関係を迫った。
突然わき腹に衝撃を受けてから、何が起こったのか理解するまでに時間がかかった。
必死に逃れた恋は震えながら自分の荷物を抱きしめ、叫ぶ。
「そんな人だとは思わなかった! 大嫌い!」
扉から慌てて出て行く後ろ姿を、追うことはできなかった。
クリスタ不慣れすぎてお絵描き掲示板みたいな使い方しかできていないという由々しき事態。