僕が、肝試しに行く話。
中学校を卒業する、前日。
僕は、仲の良い友人たちと卒業を祝って肝試しをすることになった。
田舎も田舎。
中学校のクラスも二つしか無いし、その殆どが顔見知り。
けれど、高校に上がることになればそれぞれが別の場所へと旅立つ。
その最後に肝試しを選んだのは、何故だっただろうか。
誰かが、言ったのだ。
森の中に、廃屋があったと。
その場所は、子供の頃には親から行くのを禁止されていた。
既に打ち捨てられた廃道沿いに、ぽつりと立つ一軒家だというのだ。
誰かが言った。
面白そうだから探検してみようぜ、と。
誰かが言った。
危険だからやめたほうが、と。
誰かが言った。
お前怖いのか、と。
僕は言った。
――――――――と。
斯くして。
中学生故の、無駄な行動力と熱意はその廃屋へと向けられた。
◆
その廃屋は、2階建てのようになった木造建築の建物だった。
入り口は、古いながらもしっかりとした南京錠で止められていて。
周囲を回って、僕達が何とか入れそうな穴から入ることになった。
その場で簡単なルールが決められた。
最初に行くやつが、二階の一室に五円玉を人数分置いてくる。
他の奴等は、それを取って戻ってくる。
そんな在り来りな、肝試しのルール。
全員の財布をひっくり返し、人数分枚数が有ることを確認して。
残る奴等に――懐中電灯を除いて――荷物を預け、戻ってくる。
一人頭、十数分程の時間で戻ってきて。
順々に、穴があっただの。
怖くなかっただの、言い合って。
僕の、順番が回ってきた。
◆
ぽたり、ぽたりと音がする。
水道が止まって幾数年が経ったはずの廃屋のはずなのに。
ごくり、と唾を飲む音が妙に大きく聞こえて。
ぎしり、と一歩を踏み出した。
所々に穴の空いた廊下を、右手の懐中電灯が頼りなさげに映し出す。
入った場所は、どうやら元は勝手口の近くだったらしい。
部屋を出て、右手を向けば。
左手に、上へと上る階段が見えて。
ぎしり、ぎしり。 はぁ、はぁ。
ぎしり、ぎしり。 はぁ、はぁ。
ぎしり、ぎしり。 はぁ、はぁ。
吐く息と。
床の軋む音だけが、空間を支配していた。
ぎしり、かたん。
階段へと、脚を踏み出した。
ぎしり、かたん。
――――ねえ。
二段目に差し掛かり。
そんな、声が。
耳元で聞こえて。
風の音だ、と自分をごまかして。
ぎしり、かたん。
三段目で、その声は少しだけ大きく聞こえた。
背筋が凍るのと。
振り返っては駄目だ、という直感が。
僕の全身を支配した。
ぎしり、かたん。
ねえ。
ぎしり、かたん。
こっち。
ぎしり、かたん。
向いて?
ぎしり、かたん。
ね、え。
ぎしり、かたん。
聞こえてるんでしょう?
ぎしり、かたん。
無視しても。
ぎしり、かたん。
――――無駄、だよ。 ■■、くん。
十三段目に掛かって。
階段から、離れて。
その声は、唐突に離れた。
――――戻る時に。
その声は、聞こえることはなかった。
◆
戻った全員で、話をした。
誰かが言った。
何が怖かった?
誰かが言った。
穴かな。
誰かが言った。
出入りで身体が引っ掛かったこと。
誰かが言った。
畳が腐ってたよな。
誰も、水音と。
声に関しては答えなかった。
僕も。
何も、言わなかった。
◆
結局。
誰が、肝試しをしようと声を上げたのか。
それも、分からなかった。
そして。
見知らぬ留守電が一件、携帯電話に残っていた。
時間帯は、階段を降りた頃。
非通知で残った、ナニカ。
黙って、何も聞かずに。
それを、削除した。
何故、捨てられたのか。
何故、行くのを禁止されているのか。
それすらも、分からないまま。
未だに、その廃屋は佇んでいる。