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1話 愛じゃない告白


 この作品を開いて頂き、誠にありがとうございます!


 1話から7話まではキャラクター達の出会いと、どのようにこれから活動していくか、という物語で、それ以降は各キャラクター達に視点が移り代わっていきます。


 視点は移り変わりますがお話は続き物となっているので、1話から読んで頂けると幸いです!


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 現実はいつだって救い難い。

 だから、僕は現実的なものを嫌う。




 彼女は不思議な人であった。

 どんな嫌な事件が起ころうと、ましてや身内が亡くなろうと何も動じなかった。


 それは単に冷たい人間であるから、というわけではなく、彼女はそう……現実主義者であった。


 どんなことが起ころうとも、『それは現実であるから、どうしようも出来ない』と割り切り、現実を切り捨てる。


 現実主義とは本来、理想を追うことなく、現実のことに即して処理することを言うらしい。

 とすると、彼女は現実主義者ではないのかもしれない。

 でも僕は、彼女のことをとても冷たくて、ある意味で非現実的で、美しいと思う。



 だから僕はそんなあなたに惹かれてしまった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「どうして?」


 これが僕の告白を聞いた彼女の反応だった。

 一世一代の大勝負を汚された気分だ。

 告白シーンではどんな人でもかっこよく主人公補正がかかるときいたきがするのだが……


 ちなみに名前は(あずさ)というらしい。

 綺麗な黒髪ロングの美少女だった。



 どうして名前を知らなかったというと、僕も彼女のことは噂でしか知らなかったためである。

 また、噂に出てくる彼女のことを皆、冷嬢としか呼ばない。

 というか、僕は最近ここに引越してきたのだ。



 どうして冷嬢であるかというと、どうやら彼女の家はお金持ちらしく、つまるところの令嬢であった。

 それに彼女のあの氷を凍らせたような性格を表して冷嬢と呼んでいるらしい。


「どうしてって言われても……」


 僕は言葉に詰まる。

 一般的にはイエスかノーで答えが貰えるものだと思っていた。

 彼女はまるで、告白して相手の返答を待つかのように腕を組んで待っている。


 これだから現実ってやつは救いがたい。


「あなたも、どうせ私じゃなくて私の家が目的なのでしょう」


 彼女は呆れたようにそう言った。

 あなたも ということは、他にも告白してきた人はいたようである。


「違う。僕は君にしか興味ない」

「どうして私なの?」

「君は現実的じゃないから」


 僕がそう言うと、彼女はなにやら一考して、


「梓の花言葉って知ってるかしら?」


 彼女は言った。


「梓……君の名前の?」

「えぇ、私の名前の花言葉」

「梓の花言葉は……梓に花言葉はない」


 そう、彼女の名前である梓という植物には花言葉はなかった。


「そう、花言葉はない。私は花言葉がある人が嫌い。全ての物に意味を見出す人が嫌い。現実は現実でしかなり得ない」


 彼女は言う、現実だと。


「だったら僕のこの気持ちに意味なんてない。ただ君のことが好きだからという一点でしかない」


 僕は言葉に熱を込めて、でも冷ややかに言う。

 もしこの世界が小説だとしたら冒頭の掴みかラストの名シーンの熱い告白シーンのはずだ。

 だけど僕はそんな妄想の現実も嫌いだ。


「私を好きになる人に裏がなかったことは1度もない」

「じゃあ僕が一人目になる」

「さっきあなたは私が現実的じゃないと言った」

「あぁ、」

「それが、私を好きになった理由?」

「あぁ、」

「本当か?」

「本当だ」

「本当は?」

「ぶっちゃけ顔と体つきが好みだった」


「ぐはっ!……っ」


 蹴られた。

 女子高生なら殴ってきても何とかなるだろうと思っていた。

 というか、女子高生はスカートを履いていたら足を腰より上には上げないと思っていた。


 だけど現実的じゃない。


「なっ! 何でにやけているの!? まさかあなたにそんな自傷癖があろうとは……」

「ち、違う!」


 慌てて訂正する。

 僕はそんなことを告白したかったんじゃない。



「あなたは私が現実的じゃないと言ったわ」


 さっきの会話に戻った。


「だけど、私と恋仲になってしまえば、付き合ってしまえば、私達は現実に、現実が決めたルールに縛られるんじゃないのかしら?」


 現実的、現実に縛られる、気に入らない。

 リアリティは好きだが、リアルは嫌いだ。

 だから、告白の中でも、「好き」と伝えるだけの告白は僕に向いてないのかもしれない。

 だったら、


「だったら、僕と付き合ってくれとは言わない。だけど、ただ、休日に二人で出かけたり毎日一緒に帰ったりメールを送りあったりして欲しい」


 これは傍から見たら告白じゃないのかもしれない。

 僕の大一番の勝負である告白も失敗か。

 現実らしい答えである。


 現実はいつだって不躾で容赦を知らない。


 だから僕は現実的で無いものを求める。


 この町に来たのだって、あの都会の現実感に疲れてしまったからだ。


 でも、理想を追い求めてるわけじゃない。

 僕はロマンチストでもアイデアリストでもない。

 リアルの反対はリアリティ。

 皆は知らない。



 僕はいつだって善後策ばかり考えている。


 これだから現実ってやつは救い難い。





「分かったわ。そうしましょう」




 それが彼女からの返答だった。

 意外と呆気なかった。

 


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