(9)神原ファーストコンタクト
「ごめん、気付かなくて。」
「いいん…です…。影が…薄い…のは……自覚…して…ます…。」
「ううっ、ほんとにごめん。」
「これも…、御先祖様……からの……運命…。」
「えっ、どういう事だい?」
聞くと、神原くんの御先祖様はある有名なオトノサマに仕えてきた、優秀な忍者だったんだそうだ。持ち前の影の薄さを使い、潜伏捜査をして、度重なる戦に貢献したとか…。
「そして…、その頃……から……先祖…代々……影が…薄く……なりま…した……。」
「へ〜、そうなのか。」
「そう…です…。しかし…その…御先祖様…は…、影…が…薄すぎて…遂に…自分が…仕えて…きた…オトノサマ…にも…気付いて…もらえなく…なり…、そのまま…行方不明…に。」
「でも、君はここにいるじゃないか。」
「一応…、妻は…いた…そう…です…。妻…も…忍者だった…そうですが…。」
「じゃあ神原くんも、なんか忍術使えるの?」
「使え…ません…。忍術…は…時代とともに…廃れ…、いま…では…、影の…薄さ…だけが…残り…ました…。正直…、要らない…です…。こんな…、能力…。」
そりゃあ要らないだろう。ただ気付いてもらえないだけだもんな。
「そうか。」
「そう…です…。さっきも…、気付いて…もらった…のは…嬉し…かった…です…。」
そうだったのか。表情がわからん。
「じゃあさ、友達になろうぜ!部活、卓球に入るんだろ?俺も入るからさ、一緒にがんばろうぜ!」
「ありがとう…です…。これからも…、よろしく………です…。」
やったあ、友達が一人増えたぞー。
「コラー、そこ私語を慎めー!」
塾の先生に怒られた。
やばい!勉強しなきゃ。
そして俺達は勉強し始めた…。
しばらく勉強した後、神原くんは用事があるとかで先に帰った。
俺はもうちょいがんばるか。9時になったら帰ろう。生徒がまばらになった教室で、一人でがんばるのは、なかなかよかった。
周りが勉強していないのに自分だけやってる気分にさせてくれる。実際、そんな事があるわけないが…。
9時になり、俺は帰ろうとしていた。俺以外には女子が一人いるだけになっていた。教室を出る時にその女子を見て驚いた。なんと!白石 千子さんではないか!や〜今日は驚きの連続だなぁ。
千子さんは一生懸命がんばっているようなので、俺は声を掛けずに教室を後にした…。