逃避願望
夢を見た。
いつか遊んだ「彼」と話す夢を見た。
いつか恋した「彼女」が自分を未だ好く夢を見た。
いつかどこかの現実の先、違えた選択の先の世界かと見紛う程にそれは「現実」で、そこに居る自分は幸せだった。
泡沫の夢は弾けて消えた。幸せはあまりにも呆気なく消え去り、後に残ったのは吐き気と未だそれを望むと知った自分への嫌悪だった。
気色の悪い脳味噌をほじくり返してぐちゃぐちゃにしたかった。自分の思い通りにいかない自分の体にほとほと愛想が尽きた。幾度となく望んだ死をいつになく渇望した。ただ、望んだ。続きを望んだその脳味噌で、終わりを。
いつまでも残る痕にいつまでも苛まれるなら、全ての、じくじくと痛む傷も、多少の幸せな思い出を犠牲にして、そして物言わぬ貝に、と願った。
そして、奥底に沈めた叶わぬ願望が、押しつぶされて消えることを祈った。