第3話 ティア、後悔する。
私は後悔している。
会って間もない人に魔術を教えた、そこまでは良かったのだ。
突如として魔物の大群に襲われた。町のみんなも、そして私も、なす術がなかった。
でも、彼は使えないとわかり切っている魔術を使おうとして最前線に走り出た。
その結果がこれだ。彼は突如としてできた地割れによって地面に飲み込まれてしまった。
しかも魔物と一緒に。
絶望的だ。穴に落ちて、しかもあんな魔物の大群を相手に、魔術も使えない人が太刀打ちできるはずはない。
私が魔術の存在を教えなければ。あの時守さんを止めていさえすれば。
私に彼を助けに行く力があれば。
いえ。私には彼を守る程度の力もなかったの。だから後悔しても仕方がない。これは仕方のない事実なの。
でも私は彼を少しばかり「かっこいい」と思ってしまった。好きになってしまった。だから後悔の念はとどまることを知らずにどんどん膨れ上がっていく。
他人。他人だ。死んだ人を考えても仕方がないわ。前を向いていかなければ。
そうだ。
「彼を助けに行かないと」
「それは止めておけ」
いきなり私の背後から声が聞こえる。
振り向くとそこにはヴェルードという男が立っていた。
「おそらく彼は魔術が使える」
ヴェルード、この町で最も強く、最も皆からの信頼が厚いトカゲ頭の男だ。
「どう、いうことですか?」
私は彼を見る。
「俺はあの地割れが起こったとき魔物を殲滅するために駆け付けていた。あの地割れは明らかに故意に起こされた。そしてその源はあの男だ。」
ヴェルード、いわゆる蜥蜴族のような亜人は魔力の流れを見ることができる。それ故、恐れられ迫害されてきた。この町を除いては。
ヴェルードによってこの町の亜人たちは守られている。圧倒的な強さを誇るヴェルードの前ではさすがに貴族もそのような決定を下すことはできないのだ。
「では、彼は自力で魔術を出したのですか?」
「そうだ。間違いなくあいつが出した魔力だ。しかも強大な魔力、普通の人間には扱えないほどの魔力だ。」
「でも私が魔術を教えたときはまったくと言っていいほど使えていなかったですよ?」
「そうなのか。それは不思議だな。」
「彼はおそらくまだ呪文の意味に気づいていないのですね。あなた方と同じく。ふふっ。」
そう言ってひょっこりと顔を出してきたのはこの町で最も魔術がよくできる、そしておそらくこの町で最もウザいであろう魔術師、カルラドである。語尾に必ずふふっ。が付くのでウザさMAXだ。
「魔術の本質はマナの流れなのですよ。だから私のような大魔術師ともなれば魔術の発動イメージを想像した後、マナを注ぎ込むだけで、つまり無詠唱で魔術が使えるようになるのですよ。ふふっ。」
「彼もおそらく無意識下ですがそんなイメージをつかんだのでしょうね。ふふっ。」
話し方と内容には殺意がわくが、彼の言っていることは正しいだろう。ならば守さんは
「生きている可能性がある」
私はかすかな希望が見えてきて嬉しくなった。
「人事を尽くして、天命を待て。そして冷静になれ。状況を考えてみろ、俺たちはあまり行動しないほうがいい。魔物の群れが来た後だ。もしかしたら第二波が来るかもしれない。同じことは繰り返さないようにしなければならん。ティア、お前は回復魔術が使えるだろう?」
「は、はい!」
「ならばまずケガした奴らを治療してやれ。俺はこの町に魔物が近づいていないかどうか索敵してくる。」
「わ、わかりました!」
守さんが生きている可能性が少しでも見え始めたことで、少し元気が出てきた。
人事を尽くして天命を待とう。
あんな魔術が使える守さんなら、いえ、あんな状況でも私を守ってくれた守さんなら、きっと生きてここに帰ってきてくれるはず。
そう私は信じることにした。
◇
けが人はおよそ520人。その中で致命傷の傷を負っている人はいない。守さんのおかげだ。
この調子であれば全員大丈夫そうだ。
「ティアちゃん。ありがとうよ!」
「助かるわ!」
「みんなの傷を治してくれて、ありがとう!」
違う。私よりももっとすごくて、しっかりしていて、皆を想っている人はほかにいるじゃないか。
「守さん!守さんっていう人がみんなの命を助けてくれたんです!」
「そうなのか……ならあの地割れはきっと……」
「じゃあ、私たち、恩を返さなきゃならないね!」
「そうだそうだ!守ってやつのためにも!」
「ティアちゃんのためにも!」
「救援に行くぞ!!!」
そんな皆を後目に、ヴェルードは「さすがはティアだ。カリスマだな。」と言って少し恨めしそうな顔をした。
◇
広場には総勢700名の勇敢な戦士たちが集まった。
皆、守によって守られた人々だ。
多種多様な種族。多種多様な人々。
それが一度に会し、ただ一つ、「自分たちの命を捨て身で守ってくれた人への恩返し」という目標の元に熱を帯びている。
「みなさん!私は皆さんが知っての通り、おっちょこちょいです!」
そう切り出したのは、700人の前に立っているティア。少しクスクス笑いが起きる。
「ですが皆さん!私たちは忘れてはいけません!私たちの命を、私たちの街を、捨て身で守ってくれた勇敢な勇者のことを!」
そうティアが言うと皆は沸いた。
「そうだそうだ!」
「今こそ俺たちの実力を見せてやろう!」
「ティア様のためにも!」
「絶対に!」
「どうか皆さんの力を貸してください!そして皆で守さんを助け出しましょう!!」
総勢700名の戦士たちの熱気は頂点に達した。
「おおおおおおお!!!!」
そうしてティアたちは1人の勇者を助けるため、決心した。
今度こそは後悔しないように助け出そう
と。
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※4/15に改稿しました