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くろねこ風紀録  作者: F.Koshiba
第3話 彼の朝と猫時計
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おまけ…とらねこ風・記録

 僕は島中字の班長をしている、茶トラ猫っス。葦沢町のみんなにはユキチって呼ばれてます。

 ちょっと前に、僕はボス猫のコクミツさんからとある仕事を任されました。

 梅雨が明けてからというものすっかり夏らしくなって毎日暑いですが、おてんとさまに負けないくらい張り切って、今日も仕事がんばるっスよ!

 

 やって来たのは、島中字にある食堂。この二階に住んでる寝起きの悪いお兄さんを毎朝起こすのが、その仕事です。

 そのお兄さんなんですが、実は前に木から降りられなくなって困ってた僕を助けてくれた人なんスよ。目つきは怖くても、とっても良い人っス。

 隣の家から伝って窓の前の柵に着き、部屋の中をのぞいてみると、案の定、お兄さんは窓の下にあるベッドでまだお休み中でした。あーあ、今日もお布団が蹴っ飛ばされてベッドから落っこちちゃってます。今の時期は朝から気温が高いから、きっと暑いんスね。でもおなか冷やすとカゼひいちゃうので、早く起こさなくちゃです。

 窓の端っこをカリカリ引っ掻いて呼んでみるも、これまでの経験上、そのくらいではまずこのお兄さんは起きてくれません。

 でも、ちゃんと僕が来た事に気づいてくれる人達がいるんスよ。……ほら、窓の向こう側から階段を駆け上がってくる、賑やかな足音が。

「――ねこ来たぞっ!」

「僕が窓開けるー」

「ねこちゃんねこちゃん」

 まだそんなに大きくない男の子二人と、ちっちゃな女の子一人が、弾け出たホウセンカの種みたいな勢いで部屋に飛び込んできました。お兄さんの兄弟達っス。

 窓を開けようと、三人がどやどやと群がって下のベッドとお兄さんに遠慮なくのっかります。へしゃげたような変な呻き声を聞きつつ、開けられた窓の隙間からするりと部屋にお邪魔。こっからはしばらく三人との鬼ごっこになります。朝の運動にもちょうどいいっス。

 みんな僕を捕まえようと一生懸命ですが、そう簡単には捕まらないっスよー。まごつく足の合間を縫って、本棚、タンスと次々に飛び移って捕まえてこようとする手をかわします。狭い部屋なので捕まらないためには場をよく知る事が重要スが、家具の配置や高低差の把握なんかはもうバッチリっス! ちなみにうっかり捕まっちゃうと、耳から尻尾まで好き放題モニュモニュされるはめに……。

 本棚からベッドに降りると、またみんながなだれてきました。手が届く前にタイミングを見計らって床に逃げると、またお兄さんが三人の下敷きに――。

「いっ……てぇし重いっ……!」

 みんなを押しのけて、お兄さんが跳ね起きました。鬼ごっこしている間に、いつもこうやって起きてくれるんスよ。

 ……ありゃ、でもベッドの上で座ったまま、また寝ちゃいましたね。

 っと、お兄さんの様子を見ていたら危うく捕まりそうに。すんでで避けてベッドから本棚へと移った時、本棚で埃をかぶっていた目覚まし時計に足が当たっちゃって――。

 その時計が落ちた先は、お兄さんの頭の上。響いたのは、時計についているベルの小気味良い音。

「……っ……!」

 声もなく、お兄さんは頭を抱え込んじゃいました。……こ、これはさすがにまずかったっスかねえ……怒られるかな?

 涙目で顔を上げたお兄さんを、兄弟の中でいちばん末の妹さんがのぞき込みます。

「……おにーちゃん、大丈夫?」

 イタイノイタイノトンデケー、とナデシコの花みたく可愛らしい手で頭をくしゃくしゃされて、釣りかけたお兄さんの目尻が困ったように下がり、結んだ口はへの字になりました。

 寝癖のついた頭を掻きむしって、お兄さんはベッドから降りるとよろよろしながら部屋を出て行きました。

 怒られずに済んでホッと一安心。やっぱり、お兄さんは兄弟にも猫にも優しくて良い人スね。うん、僕と同じ茶毛だけの事はあるっス!

 

 お兄さんを無事起こして鬼ごっこも終わると、僕はその食堂の外でしばらく待機して、四人の兄弟が出かけていくのを陰からコッソリ見送ります。

 男の子二人は黒い鞄を背負って、呼びに来た近所の子達と一緒に。女の子は黄色い鞄を肩にかけて、親御さんと一緒に。それぞれ出かけていきます。

 いつも最後に出かけていくのは、お兄さん。

 そしてお兄さんだけが気づいていたりするんスよ、僕の密かなお見送りを。

 気づいてからお兄さんもコッソリと、僕に毎日朝ご飯をおすそ分けしてくれるようになりました。きっと目覚ましのお礼だろうと思って、いつもありがたく頂いてます。

 今日もらったのは、カニカマボコ二つ。僕が食べ始めたのを見届けて、お兄さんも自転車で出かけていきました。

 いってらっしゃーい、お兄さんもおてんとさまに負けず、がんばるんスよー。

 

 これで、僕の朝の仕事はおしまいです。

 もらったもう一本のカニカマボコは、今からヨツバと子猫達のところに持っていってあげるっスかね。その後には班長猫として、島中字の見回りもしなくちゃです。

 それじゃ、僕も改めていってきます!

 

 

 とらねこ風・記録/終

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