試験当日
「あれ?こっちだろ?」
センター試験の日、降り積もる雪の中で、僕は朝から迷子になっていた。
「僕はなんで道、確認してこなかったんだよ」
試験の緊張と迷子のストレスで僕は座り込んでしまっていた。
腕時計を確認すると、到着を予定していた時間まで残り10分を切ってしまっていた。
「はぁ、こんなところで終わってしまうのかな」
ため息と一緒に零れ落ち言葉に僕の気持ちも沈んでいった。
そのとき、女性の声が僕の意識を引き戻してくれた。
「諦めるんですか?」
「え?」
振り向くと、赤いコートを着た小柄な女の子が立っていた。
「今日まで頑張って勉強したんでしょ?それをこんな所で諦めるんですか?」
「…嫌だ、嫌だ!こんな所で終わってたまるか!」
僕は立ち上がると、自分の頬を叩き、気合を入れた。
「ありがとう、お嬢ちゃん。ついでにこの大学の場所ってわかるかな?」
僕は鞄から大学までの地図を出して少女に見せる。
「あの…はぁ、付いて来てください」
ため息をつくと、少女は僕の前を歩いて行く。
「ごめんね。にしても君、しっかりしてるね」
「貴方がしっかりしてないだけですよ。こういうときは、ちゃんと下見してから…」
「ははは、まさか小学生に怒られちゃうなんてね」
僕が笑いながら話していると何故か先導していた少女が立ち止まる。
「ん?どうかしたの?」
僕が聞くと、少女は振り向いて鞄から免許証を取り出す。
「私、一応は二十歳過ぎてるんだけどなぁ」
「はい?」
免許証を確認すると、そこには僕の1つ上の年齢が書いてある。
申し訳なさそうに僕が免許証から目を離すと、かなり小柄な女性は、顔を真っ赤にしながら、すごい形相で僕の事を睨み付けていた。
「ご、ごめんなさい」
「はぁ別にいいわよ、それより、もうそこが試験会場よ」
彼女が角を曲がった先を指さす。
「本当にありがとうございます。それでは」
「ちょっと!」
僕が申し訳なさのあまり、この場を立ち去ろうとすると、彼女が僕の袖をつかむ。
「あ、あの何でしょうか?」
「何1人だけ行こうとしてるのよ」
「へ?」
「一緒にいくわよ。えーっと、貴方、名前は?」
「え、西田です」
「そう西田、覚えたわ」
彼女は少し前を歩いてから、くるっと振り向いて悪戯な笑みを浮かべる。
「次に会ったら何かおごってね。西田」
「次に会ったら。ですか?」
彼女は大学の方を見ると力強く言葉を放った。
「そう次に会ったらよ。だから絶対合格するわよ」
「んっ…はい。必ず!」
そう言って僕達は雪の中、試験会場に向かって走っていった。
センター試験を受ける人たち、頑張って下さい