第九十四話 私、疑われました。
・・・なんだ、この悪夢は。
どれもゴブリンではないぞ!
姿がどれも私の知っているゴブリンのものではないぞ!
あの小娘も何やら化け物共に指示を出していた。
あの小娘、我らに嘘を流したのか!?
あの小娘が歌い始めた途端に悪夢は始まったのだ。
頭が割れる程の頭痛と吐気、全身が燃えるような暑さと芯が凍る程の寒さ、この世の物とは思えない幻覚と幻聴、暗闇、そして化け物共の咆哮。
あの小娘は数々の状態異常を我らに振りまいてきた。
どんなスキルを使ったのか、そもそも小娘はスキルを使えたのか。
次々と疑問しか湧かないがそれを考える余裕すら無かった。
目覚めた時は私は眼を疑った。
我が国の屈強なる騎士も、聡明なる魔術師も、気高き文官も倒れていた。
数名は私のように周りを見渡して驚愕している者。
ただ、座り込んで惚けている者。
何かに怯えたかのように震える者。
誰一人として無事な者は居なかった。
私は急いで護衛すべき方に声を掛けた。
「グフ国王陛下!!!
リビア王女!!!
ご無事ですか!?」
「アングラよ、儂らは無事だ。
リビアも目覚めてはいないが無事だ。
『身代わりの指輪』のお蔭で先程の影響は軽減が出来た。
指輪はこの通り砕けてしまったがな。」
「そん・・・な、まさか、あり得ない。
グフ国王陛下、今すぐに城に戻りましょう!
ここは危険です!
やはり、あの者は信用が出来ない!
我らの命を狙ったに違いありません!」
急いでここからグフ国王陛下とリビア王女を逃さねば!
いつ、目の前の怪物の軍勢が攻め込んで来るか分からない。
今の我らの状態では無抵抗に蹂躙されるだけだろう。
早く、逃さねばこの国が終わってしまう!
【テレポート】!
「アングラよ、彼の者は賢者ベルベゴートが女神メカルーメ様の力を借り召喚した者。
そう疑心を抱くな。」
な、何故だ!?
【テレポート】が使えない!?
もしや先程の攻撃に封印でも付与されていたのか!?
「グフ国王陛下、城への【テレポート】が使えません!
どうやらあれが我らを逃さないように封印を掛けたようです!」
「アングラよ、よさぬか。
彼の者は勇者だ。
女神メカルーメ様が選んだ異世界の者。
それも儂らがこの世界を救って欲しいと頭垂れるべき存在よ。
ならばそれ相応の礼儀を見せるのが筋であろう。」
どうすれば良い?
どうすればグフ国王陛下やリビア王女を救える?
何か、何か手は無いのか!?
あの小娘はなんだ?
レベル0の小娘だけならば私でも勝てる。
しかし、その背後の化け物共を私一人でどうにか出来るだろうか?
いや、無理だ。
強さは分からないがあの数からグフ国王陛下とリビア王女を守り通す事は不可能だ!
私は・・・どうすればいいんだ!?
「国王様、起きましたか。
ゴブリンを召喚したのはいいのですが皆様が気絶させてしまいました。
召喚の為の歌がこのような事を起こすとは思いもよらず。
申し訳ありません。」
「な!?」
いつの間に小娘が近くに!?
少なくとも私が気が付かないなんて、あり得ない!
もしや小娘は移動系のスキルも所持しているのか?
レベル0も偽っていたのか?
「勇者シズクよ、気にする事はない。
どうやら先程の歌はこの世界では別の力を持ったのやも知れぬ。
して、あの者達が其方の僕となったゴブリンか?」
「はい、その通りです。」
こいつは何者なんだ!?
魔物を召喚し、我らを騙し、逃さず、国王陛下の命を狙う者。
・・・あぁ、そうか。
こいつは魔王なのか。
賢者の召喚は失敗だったのだ。
こいつは魔神が出した魔王なのか。
せめてグフ国王陛下だけでも救い出さねば。
今、こいつを殺せば背後の化け物共も消えるだろう。
だが私だけではこいつを倒せないかもしれない。
どうすれば倒せるんだ!
「国王様、どうしますか?
ゴブリンの訓練でも見ますか?」