第九十二話 私、ゴブリンの軍勢を召喚しました。
何も無い草原が私の前に広がってる。
遠くには霞んで見えるけど山もあるね。
木や岩、丘も無い背が高い植物しか無い草原だね。
あれ、遠くに何か居たけどすぐに居なくなったね。
《時空間》で見てみると緑の服の人が顔が大きい狼を解体してた。
よく見たら『紅乙女』と同じようなデザインの革の鎧みたいだね。
じゃあ、お城の騎士の人かな?
なら無視しても問題無いのかな?
ゴブリンの餌食にどうかなって思ったけど止めとこ。
私の後ろには国王様を始め一緒に草原に来た人が見てる。
なんか期待や好奇心や恐怖や侮蔑なんかの混ざった視線を感じるね。
召喚以来の気持ち悪さだよ。
悪意のある人に見られたくもないんだけど。
魔王時代だったら問答無用で配下にして私を讃えさせて魔王城の掃除をさせたりしてたんだけどね。
この世界じゃ出来ないね。
だって私は勇者として活動するんだからね!
精々、私に利益が有って良い事をやってもらうぐらいかな。
私の代わりにスキルを覚えてもらったり私の知らない弱い人を助けたりね?
犯罪なんて無くても良いんだよ。
犯罪を犯すぐらいなら私が操ってあげよう。
地球でも魔王時代の世界でもそうしてきた。
そのせいであの邪神に目を付けられたんだけどね。
後は隣と上にこの世界で出来た娘、静と忍。
私は勇者である前に二児の母なんだよね。
お腹を痛めて産んだわけじゃないし会って短い期間だけどそんなのは関係無い。
二人とも私の可愛い娘だよ。
だから今回のゴブリン召喚は派手に行こう!
私達に手を出そうだなんて考えられないぐらいの迫力を演出してみせよう!
さぁ、やろう。
後ろには大勢の観客が揃った!
何をしても大丈夫な舞台も整った!
ならば後は役者が白熱した演技で観客を魅せるだけだね!
召喚方法で思いつくのは色々ある。
特殊な道具や魔法陣を使って召喚するイメージが強いね。
でも私は歌で召喚したい!
美少女の歌声に応える怪物、燃えるね!
早速、それらしい歌、私の大好きなアニソンを歌おう!
スキルの【歌唱】と【魔性の叫び】を組み合わせてこの世の物とは思えない程の歌を聴かせてあげよう!
最初はゆっくりで穏やかそうなんだよね。
「〜〜〜♫
〜〜〜〜〜♫」
今度は【夕闇】を使おう!
ゴブリン達のお陰でスキルレベル10になって明かりを操れる範囲がとても広くなった。
後ろの客席から舞台となる目の前の草原一帯を丸ごと暗くしていく。
少しづつ、本当に少しづつ暗くしていく。
後ろから何人か異変に気付いたみたいでちょっと騒がしいけど無視。
月明かりがある夜ぐらいまで暗くしたら次の段階だね。
私自身を魔力で浮かばせる。
【浄化】で青白い光を淡く纏いながらね。
それでも周りが暗いから凄く神秘的だね。
歌も終盤に近づいて激しくなってきた。
これからゴブリン達を召喚していこう。
あの魔王の調整も終わったしお披露目しちゃおう。
召喚する場所にも【浄化】を使う。
そして段々と光りの明るさを高めていって一気にゴブリン達と魔王を呼び出した。
ゴブリン達には静かに動かないようにと命令してある。
ゴブリン達を種類別に並べて召喚したから統一感があって軍隊みたいだね。
そして武器も与えておいた。
武器毎にも分けてあるからますます軍隊ぽいね。
何体かまた進化してるみたいだから私も知らないゴブリンが何匹か居たね。
それにしても五千の軍勢って中々の迫力があると思うんだけどね。
そして最前列にはあの魔王、ダニエルって言ったっけ?
姿も全身が丸から筋肉に凄く変わってて大変な事になってる。
レガリア師匠と良い勝負かも知れないね。
じゃあ、歌も終わったしとりあえずみんなで【威嚇】を使ってちょうだいな!
『グァァァアアアアアアアアア!!!』
地を揺らす程の音。
後ろから叫び声や悲鳴が聴こえるけど無視。
私と娘の二人には防音加工をしてるよ。
さぁ、国王様、私は能力を見せたよ?
そっちは何をしてくれるのかな?