第四十三話 私、祀り上げられました。
俺は不思議な夢を見た。
町の奴らや子供ら、領主様や兵士や館の奴らが出てくる夢だ。
他の奴らが変な立ち方をしてたから夢だって分かった。
横に立って逆さまに立って。
バラバラな立ち方だった。
だが地面の感覚がなかった。
フワフワと浮いてるようだったな。
細かい部分まで鮮明に覚えてる。
離れた所で領主様が手足をばたつかせて移動しようとしていた。
領主様の娘、アメリー様の所に行こうとしてたらしい。
領主様の近くに居たザバが言っていた。
そうだ、町の奴ら全員が同じ夢を見たらしいから不思議だ。
それよりも不思議な事が有った。
突然、聞いた事のない声が響いた。
男か女とも大人か子供かすら分からない声だった。
ただ、聞いていて心が安らぐような感覚は覚えてる。
声はアクマと名乗っていた。
姿の無いアクマによると俺達が起きれば腹が空かない、病気にならない、怪我も直ぐに直るらしい。
そうなったらいいなと俺は思った。
俺の二人の子供が流行り病になったからだ。
俺の子供以外にも町の多くの子供がこの病になってる。
子供にしか罹らない流行り病だ。
何日も熱が出て水すら自分で飲めない。
日に日に弱っていくのが目に見えていた。
町のマグル教のシスターの【祈り】で病気の進行を抑えてもらってるがなんせ人数が多いから効き目があまりない。
それでも寝らず、食わずで【祈り】を使ってくれてる。
シスターも日に日にやつれていった。
あんなにふくよかだったシスターも今じゃ見る影もなかった。
誰が見ても命懸けでやってると分かってる。
でも効き目があまりない。
いや本来ならこの流行り病になってら3日も経たずに死んでしまうらしい。
抑えてはいる。
だけど確実に進行してる。
流行り病の特効薬は無い。
死以外なにもないらしい。
俺は祈らずにはいられなかった。
アクマの言葉が本当になりますように。
俺だってそんな筈は無いと分かっていた。
あり得ないと分かっていた。
だが、祈らずにはいられなかった。
〜 〜 〜 〜 〜
朝が来た。
アクマの言葉が忘れられなかった。
俺も変になっちまったらしい。
あんな夢に縋っちまうなんて。
手で顔を覆うといつもとなにかが違った。
おいおい、なんだよこれは!?
俺は木こりだ。
俺は若い頃、指を一本切り落とした。
木を切ってたら間違って指も切っちまった。
その指が今は生えてる。
曲げたり伸ばしたり引っ張ったり噛んでみたりとした間違いない。
俺の指だ。
おいおい、もしかして夢の、アクマの話は本当かよ?
少し惚けてたらティルの声が響いた。
俺は急いで声の聞こえた所、二人の子供が居る部屋に駆け込んだ。
ティルはヤムとイリィを抱き締めて泣いていた。
二人共キョトンとした顔をしてされるがままだった。
ティルもあの夢を、アクマの声を聞いたらしい。
ティルはすぐさま子供達の所に駆け込んだ。
そしたら二人共起きた所だった。
熱も下がっていた。
しっかりとティルの顔を見ていた。
ティルはそこで泣きながら子供達を抱き締めたらしい。
ヤムとイリィもアクマの声を聞いてたらしい。
一家全員がアクマの声を聞いてた。
いや俺達だけじゃなかったのだろう。
外から悲鳴とも歓声とも思える声が次々と聞こえてきた。
他の奴らの子供も同じように治ってるらしい。
傑作だったのは顔に大きな古傷があったドンの顔が綺麗になってた。
あの夢以来、流行り病は無くなった。
シスターのお陰で流行り病で亡くなった子供は居なかった。
全員に対して【祈り】を使ってたから効果は小さかったがそれでもまったく無意味だった訳じゃなかった。
シスターが諦めなかったからアクマの力で子供の全員が元気になれた。
その日にシスターは倒れちまったが休めば大丈夫らしい。
シスターとアクマに感謝だな。
そして町ぐるみでお祭り騒ぎになっていた。
町の皆でアクマを讃えた。
子供達の命を救ってくれたんだ。
こうなっても可笑しくはなかった。
そしてまたアクマの声を聞いた。