二十八話 私、テルさんから招待されました。
世界が変わった。
これは空間系の魔法だと思う。
空間を区切るというか別の空間を作ったというか、説明が難しい。
でも使った人は分かる。
テルさんだ。
そしてその空間になった途端、テルさんの姿が変わってた。
あの肉の塊から美女に一瞬で変わった。
髪は栗色でボブ、そして頭の上に同じ栗色の三角の耳。
まん丸な青い瞳に人と違う、獣のような鼻
後ろにはゆらゆらと揺れる尻尾らしき物。
しなやかな体に不釣り合いな豊胸。
そんな人が目の前で立ってました。
うん、なんで裸なの。
そんなに私にその肉を見せびらかしたいの?
モグヨ、ソレ。
「ひァはィヒヒヒヒぃ!」
「うぇい!?」
隣から聞き覚えのある奇声が聞こえたから顔を向けてみれば、あの子が居たよ。
こっちも裸で涎とか色々垂れ流しながらさっきみたいな奇声をあげながら這いずり廻ってた。
ちらっと自分の方も見てみる。
うん、裸ん坊だった。
周りには私とあの子とテルさんしか居ないからいいけど、いやよくないけど。
あぁ、もう這いずり廻るのやめてよ、姿は私と同じなんだから私がやってるみたいじゃん。
色々と見えちゃいけない所も見えちゃってるから。
出てくる条件は整ってないのに。
もしかして・・・。
「もしかしてあの子を呼んだのはテルさんですか?」
「えぇ、シズク様。
私が呼ばせていただきましたわ。
改めて挨拶をいたしますわ。
初めまして、異界の覇者。
そして異界の神。」
わぉ、あの子の事、神だってバレてるよ。
じゃあ、気を使わないでいいや。
秘密が隠せそうにないし。
「分かってたんですか?
あの子が神だって事。」
「私より神格の高い方でしたから。
ただ、会話は難しいようで残念ですわ。」
「ウヒェへへえへいィ。」
今度は後転宙返りを連続でやってた。
「まぁ、そうでしょうね。
この子もこんな状態ですから。
それで、テルさん、その姿が本性ですか?」
狂ってるこの子に会話はほぼ無理だから。
テルさんの姿は猫の獣人みたいだけど。
「えぇ、これが私の本当の姿ですわ。
伝言者テルの姿ですわ。」
「礼拝堂で会った時と姿が違うけどなんでですか?」
「私の神格は高くはありませんわ。
人に憑依して初めて地上に降り立つ事が出来ますわ。」
神降しって訳?
じゃあ、あの人って巫女さんとかイタコみたいな人?
「あの人って誰ですか?
礼拝堂に居たあの人は?」
「人に憑依すればその人の魂が下位の神格である私でも壊してしまいますわ。
ですから罪人を依り代にしていますわ。
あれはこの世界の処刑の一つですわ。」
そ、そうなんだ。
怖いよ異世界。
神聖な仕事だと思ってたら処刑だったよ。
「それで私をここに呼んだのは何故ですか?
私はメカルーネさんの加護を与えられると言われて来ましたがここで渡すんですか?」
「いいえ、それとは別ですわ。
私はシズク様が気に入ったので呼ばせていただきましたわ。」
「気に入った?
私をですか?」
「はい、シズク様の食べっぷりが気に入りましたわ。」
「ぇ、ぁ、はい。」
お腹がはち切れんばかりに食べたからね。
乙女として恥だけど本当に美味しかったから仕方が無いよね!
「他の方は私の前では殆ど食べてくれる方がいらっしゃいませんでしたわ。
顔を青くして赦しを乞う方が大半ですから。
あのように美味しそうに食べてくれたシズク様と食べれて楽しかったですわ。
なので私からも加護を授けたいと思い呼ばせていただきましたわ。」
「ありがとうございます、テルさん。」
なにそれ、テルさんと食べる事に赦しを乞うってなんか大変な意味でも有ったのかな?
ヤハルさん、そういう事を教えといてよ。
「この空間に来た時点で加護は授けられましたわ。
もうそろそろ元の場所に戻りますわよ。」
「はい、分かりました。」
「ひぅホィあヘイハァ!」
それにしてもあの子の方が神格が高いって。
納得し辛いけど。