第ニ十一話 私、ヤハルさんにレベルの事を聞きました。
暗闇の中、影が移動する。
何も見えぬ筈の暗闇で影はまるで見えているかのように動く。
上に上にと壁を登り続ける。
まるで地を走るかのような速さで壁を登り続けた。
ようやく止まった所には窓があり、影が窓から部屋を覗き込むかのように頭を出した。
部屋には光が無い。
影は部屋の中を確かめた後、するりと部屋の中に入った。
暗闇に包まれている筈の部屋の中を見えているのか迷いなく動く。
そして影は部屋の奥にあるベッドの前で立ち止まった。
そして懐から何やら鋭利な太い針のような物を取り出し勢い良くベッドに向かって振り下ろした。
グシュ!
まるで果実を潰したかのような鈍い音と鉄の匂いが漂い出す。
影は針を懐に仕舞いながら窓に駆け寄り部屋から出て行った。
「アハハァ、ハハ、ハハァ、ァ。」
影はベッドから出てくる幼い少女の壊れたかのような笑い声を聞く前に出て行った。
部屋にはまだ少女の笑い声が響いていた。
〜 〜 〜 〜 〜
今、私はヤハルさんと料理を作ってます。
なんでって?
私も訳が分からないよ。
ヤハルさん、勇者の教育係だよね?
なんで料理なの?
まぁ、この世界について勉強してたんだよ。
国の情勢やらどんな種族が居るのかとか。
それからヤハルさんが私に料理は出来ますかって聞いたから出来るけど上手くないって答えたらこうなった。
『料理が出来れば後々、役に立ちます!
女性の幸せを掴むにはこれが一番です!』
なんて言ったと思えば城の調理室に連れてこられてこの世界の料理を作ってる。
いや、私、勇者の前に女子高生だから!
女性の幸せなんかまだいいから!!
「ヤハルさん、少し聞きたい事があるのですが宜しいですか?」
「はい、なんですか?」
二人揃って皮剥きしてます。
ヤハルさんが手本を見せながらの皮剥き。
く、私の想像した勇者ってこれじゃないよ!
私はクラムという根菜の皮を包丁みたいな刃物で剥きながらヤハルさんに質問した。
料理は・・・出来ない事はないから話しながら皮剥きは余裕だよ。
うん、勇者が皮剥きとかやっていてもいいのって思うけどね。
「はい、私はレベルを上げたいのですがどうすればいいんですか?」
クラムって凸凹だから皮が剥きにくいな。
もしかしてしかも皮と実が同じ茶色だから何処を剥いたか分かりづらいし。
「私は勇者として召喚されましたから一刻も早くレベル1にならなければと思いましたので。」
早く冒険に出たい。
勇者らしく魔物に無双したい。
でも配下も増やしたい。
く、二つに一つしか道がないのか?
「シズク様、この世界でのレベルアップの方法は覚えていますか?」
「はい、覚えてます。」
さっき習ったばかりだもん。
覚えてなかったら自分の頭の馬鹿さ加減に泣くよ。
確か、魔物を倒す時に得られるエネルギーでレベルが上がる。
レベルが上がると自分の能力値が全体的に上がったり新しくスキルが覚えられたりするんだって。
特にスキルはレベルが上がった時のクラスによって覚えられるものが変わるんだって。
勇者のスキル、めっちゃ欲しい!!
ならば魔物を倒せばいいのかな?
でも配下は増やしたい。
どうすればいいんだろう?
「はい、その通りです。
ですがレベルが0から1に上がる時は特別なんです。」
ふぇ?
「特別、ですか?」
な、何!?
魔物を食べたりとか、薬を飲んだりとか、もしかしたら特定の道具が必要なの!?
「はい、特別です。
レベル1に上がるにはある儀式を受ける事になります。」
「儀式、ですか?」
儀式、私には火を囲んで裸で踊るおじさん達の想像が・・・気持ち悪っ!!
「はい、女神メカルーネ様からの祝福を受ける『成人の儀』というものです。
幸いシズク様は成人されてますので次の『成人の儀』で祝福を受けられると思います。」
ふ〜ん、『成人の儀』かぁ。
中世の世界の『成人の儀』って理不尽なものが多いらしいからな〜。
はっきり言って心配だよ。
嫌がる私にあんな事やこんな事をしちゃうんだ。
あ、ちなみにこの世界では10歳で成人と言われているそうです。
早いよ、私、まだ子供でいたいよ。
魔王時代でも15歳だったのに。
どっちにしろ私は大人扱いだけど。
「そうだったんですか。
それで次の『成人の儀』はいつなんでしょうか?」
これ重要。
この日によって私の冒険譚の始まりの日が決まるんだから。
「はい、次の日は1年後、500日後です。
シズク様、それまで女性として磨き続けましょう!」
「え?」
ザシュ。
「シズク様!!
手、手を切ってますよ!!」
あぁ、二回目の切り傷の方が痛いよ。