第百九十九話 私、転生者の心を覗きました。
俺はそのある人に助けられた。
森で逃げ惑う俺を保護してくれた。
見た目はすげー怖いけどな。
今は孤児院だと思う施設に居る。
そして問題も分かった。
言葉が分からん。
その助けられた人に最初に声をかけられた訳だが全く分からんかった。
まぁ、化け物が居る世界だ。
言葉が通じない事も納得だろう。
次に訳の分からん技術がある。
森の中を逃げる途中で何かで切っちまったんだろうな。
腕に大きな切り傷がパックリとあって血がダラダラと流れてた。
そこに何か液体を掛けたと思えば傷が見る見るうちに治っちまった。
他にも何かを俺に掛けたらしく頭上に何かが出てきたり化け物に火の玉を浴びせたりしていた。
科学じゃないと思うけどな。
いや、地球よりも進んだ科学なのか?
あと、どうやら俺は5歳児ぐらいまで若返っていたようだ。
途中で綺麗な池があってそこに写った俺がそれぐらいの幼さだったからな。
そして連れられるままこの孤児院のような所に来た訳だ。
途中でなんやかんや寄り道してたがな。
こっちの孤児院は裕福らしい。
服こそ質素だが食べ物や飲み水に苦労はしていないらしい。
味も日本の料理で舌が肥えているであろう俺も満足出来た。
その理由は寄付だと思うぞ。
欲深そうな豪華な服を来た太った男が袋一杯の金貨を渡しに来たり、これまたずる賢そうな女が袋一杯の金貨を渡しに来たり。
最初は子供を売買する所に居れられちまったと慌てたが子供と遊ぶだけで帰っちまうからな。
・・・ロリコンどもが金を払って遊びに来てるって思いそうだがな。
しかし、言葉が通じないってのはこれほどキツイ事だったんだな。
ジェスチャーも通じない、言葉も通じない、文字も通じない。
意思疎通が不可能だった。
元々、俺は無愛想で無口だ。
そりゃ、孤児院で浮いちまう。
何をする事も無い、ただ食って寝るだけの生活。
孤独で気が狂いそうだ。
それにこの辺りには黒い髪に黒い瞳、平たい顔の奴は居ないらしい。
俺は異質な存在だった。
そんな生活を送っているとある日、ふと聞こえたんだ。
部屋でぼうっとしていたら懐かしくもう聞く事も出来ないと思っていた言語が聞こえたんだ。
俺は急いで外に出た。
そして見つけた。
黒い髪、黒い瞳の二人の女の子が子供達に混じって遊んでいた。
一人は肌は青白く痩せていて外人のような顔付きだ。
笑顔が眩しいぐらいだ。
ニカって擬音が付きそうだぜ。
髪を後ろに縛って団子のようにしている。
歳は10代ぐらいか?
服は、妙に和服と洋服を混ぜたような黒い洋服だった。
その子が『達磨さんが転んだ』と日本語で言っていた。
もう一人は今の俺と同い年ぐらいか。
こっちの子はまるで精密な日本人形のような純日本人の顔付きだ。
無表情ではあるが。
髪はストレートの長髪。
白のワンピースを着ていた。
他の子と混じって『達磨さんが転んだ』に参加していた。
俺は一目惚れしたんだろうな。
その同い年の女の子に目が離せなくなった。
そして気付いたら声をかけていた。
無口な俺が興奮して話したのはいつ振りだろうか。
姪が夜這いに来て説得した時以来か?
「俺、大沼 燐童って言うんだ!
お前達の名前はなんだ?」
「初めましてオノリンドー君!
忍は早乙女 忍だよ!
こっちは忍の妹の静!
よろしく!」
「・・・」
言葉が通じた時、俺は感激したよ。
言葉ってすげーな。
「おぅ!
よろしくな!
忍さん、静ちゃん!」
すると忍が怪訝な顔をした。
そして目を瞑ってムムッと唸り始めた。
「・・・オノリンドー君は違うの?」
違う?
そう言えば二人とも日本語を理解している。
忍さんは話せてるし静ちゃんも・・・話してないな。
もしや日本語を話せない?
「おい、静ちゃんは話せないのか?」
「うん、そだよー。
えっと、念話が通じてない?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
惚れた子と話せないだと。
いや、それが普通だ。
異世界で日本語が通じる訳が無い。
・・・忍さんと思いっきし日本語で話してたよな!?
忍さんは日本人には見えない。
ならば日本語を教えた存在が居るのか?
「おい、忍さん!
あんたに日本語を教えた奴は誰だ!?」
「忍に日本語を教えた人?
おかーさんだよ?」
それじゃ、二人の母親が日本人なのか?
同郷の奴が居たんだ。
話を聞きたい。
もしかしたら何故、俺がこの世界に居るのか知っているかもしれない。
「頼む!
二人の母親に会わせてくれ!
話を聞きたいんだ!」
「う〜ん、どうしよう?
え、会わせちゃダメ?」
「なんでだよ!?
頼むから会わせてくれよ!
このグブ!?」
ゴキッ!
頭を下げようとしたらアゴに衝撃が来てそのまま気を失った。
最後に手を真上に上げた静ちゃんの姿が見えた様な気がした。