第百九十話 私、奴隷の行動を見ました。
僕の主人も可笑しな事に奴隷だった。
本物の奴隷では無いのだが。
僕を買った主人は僕以外にも何人もの奴隷を買った。
いや、曖昧な表現は辞めよう。
103人、僕が居た奴隷商人が保有していた奴隷全てを買い取ったのだ。
その金額は馬鹿にならない。
奴隷は消耗品ではあるが高額だ。
中には見た目が麗しく貴族が欲しがる愛玩奴隷も居たはずだ。
僕がまだ○○○だった時に聞いた噂が本当ならばだが。
一人で金貨が千枚も必要になる奴隷も何体か居たはずなのだ。
それを買い取る莫大な財力。
○○○でも無ければ個人ではほぼ無理なのだ。
僕の予想通り、主人はとある集団の一人だった。
名はクリア団。
聞いた事もない集団だった。
しかし、その集団の行動は可笑しくとんでもない事だった。
質の高い武器や防具を安く売る。
魔道具を安く売る。
どこの店よりも安く美味い食事を売る。
どれも在庫が大量にあるのかどれだけ売っても品切れにならない。
そして、その売り上げで奴隷を買う。
僕の居た奴隷商人以外にも奴隷を買い取っているらしい。
他にもゴロツキやスリを捕まえて奴隷にしたりもしていた。
そして日々団員が増えていった。
しかし、奴隷は一切使わない。
何故、奴隷を買ったのか口にしない。
やった事と言えば今までに食べた事の無い信じられない程、美味い物をたらふく食べさせては好きなようにさせていた。
僕の考えていた奴隷生活とは似ても似つかない。
奴隷とはこんな生活を送れる者達だったのか。
そんな僕達の主人が何故奴隷なのかと思ったのか。
それはあの方に会ったからなのだ。
ある日、いつも通り美味い物を食べ、今日は何をしようか悩んでいた時にあの仮面を被った方が訪れた。
あの方は僕達を黒い霧で包んだ後、見知らぬ場所に送った。
集団転移を一人で行うという偉業に驚き思考停止に陥っていた僕はあの方の言葉に耳を疑った。
『君達には色々と教えてあげよう。
言語、計算、武芸、道徳、科学、魔法、まぁ色々とだね。
家庭教師と自室を一人づつに渡すからとにかく頑張ってね。
それじゃあね〜。』
・・・威厳もへったくれも無いがあの方の言葉通り、自室と家庭教師と名乗る人材を渡された。
どうやら僕の主人もあの方の奴隷だった事が分かりここで同じように住んでいる。
確か今は文字の勉強をしているらしい。
そして自室はドアや窓の無い部屋だ。
どうやって出入りするのか?
けっして驚くなよ。
頭に場所を思い浮かべれば転移するんだぞ。
これだけじゃない。
無限に水や食事が生み出される魔道具。
無限にページがめくれる『のーと』と無限にインクが出る『ぼーるぺん』。
量産型人形族だと思われる文武両道の万能家庭教師。
『げーむ』、『えいが』、『からおけ』などの娯楽。
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恵まれた環境を数え切れないほど用意していた。
もう一度言おう。
奴隷とはこんな生活が出来る者だったのか!?
しかし、無かった物もある。
外へは出られないのだ。
いくら外を思い浮かべても広い『ぷーる』や『おんせん』、『こうえん』など室内しか移動出来なかった。
そう、出来なかったのだ。
しかし、今は・・・。
「ここは、何処だよ。」
僕の目の前には大きな木が生える森や川が見える。
そしてその川の近くに小さな小屋が有るのだ。
そこから黒髪の綺麗な女性が現れたのだ。
・・・あの方の関係者なのかもしれない。
対応に気をつけねば。