第百八十九話 私、ある奴隷の記憶を見ました。
僕は奴隷だ。
最初から奴隷だった訳じゃない。
由緒正しき○○○だ。
奴隷に落とされた時にその○○○と言う身分も名前も名乗れないように縛られている。
奴隷落ち。
それは残酷で、絶望しか無い出来事だ。
今までの人生を無に変えて持ち主によってはその先の人生を無残な物に変える出来事だ。
まず、名前を奪われる。
名前を名乗る事が出来ないのでは無く、名前そのものを奪われるのだ。
【鑑定】で見られても名前は表示されなくなるのだ。
それは人から物へと落ちるという意味がある。
そう、人が物として扱われるようになるのだ。
だから所有者が奴隷を殺したとしても財産を壊しただけという認識なのだ。
しかし、奴隷とか高価な物だ。
自分の財産を壊す酔狂な者は少ない。
・・・しかし、居ない訳でもない。
中には消耗品として奴隷を買う者も居るのだ。
奴隷を壊して喜ぶ変人も居ると聞くしスキルの実験台として買われる場合もあると聞いた。
怖かった。
その話を奴隷となった時に思い出して泣き出しそうになってしまった。
しかし泣かなかった。
いや、泣けなかった。
次は自由を奪われる。
主人の命令以外の行動を制限されるからだ。
僕の場合はまだ買われていないから『奴隷商人』が主人にあたる。
その『奴隷商人』が僕に泣けと言わない限り泣くことは出来ない。
しかし、それは助かったと思う。
例え奴隷落ちをしたとしても僕は○○○だ。
口にする事は出来ないがそれでも心の中は○○○なのだ。
そして、最後は力を奪われる。
クラスは強制的に『奴隷』と成る。
スキルも強制的にスキルオーブとして取り出される。
だから僕の○○○の固有スキルも全て消えてしまった。
レベルを上げる為に色々と苦労をしたのに、だ。
噂ではレベルを下げられたりステータスを下げられる事もあるそうだ。
また記憶や知識、思考力をも奪われる時もあるそうだ。
本当に最悪だ。
僕だって奴隷落ちにされた時は僕達を陥れた相手を呪った。
しかし、どうしようも無いのだ。
一縷の望みもある。
良い主人に恵まれる事だ。
そうすれば壊される事も無く生活が出来る。
一部の奴隷は豪商や王家に買われて元の生活よりも高い水準の物を送る事もある。
・・・運が良ければの話だが。
奴隷は高いとは言え宝石のように高い訳では無い。
高い消耗品なのだ。
魔物の弾除けとして買う行商人も。
使い捨てとして鉱山に送る者も。
奴隷同士を戦わせて娯楽とする者も居るのだ。
本当に嫌だ。
こんな、こんな終わり方なんてしたくなかった。
せめて、商人に計算をする奴隷として買われれば生活は保証される。
僕はそんな幸運を祈るしかなかった。
そして僕はある日、主人に買われた。