第百六十六話 私、ヤハルさんの歌を聞きました。
午後から来る貴族の人を待ってる間、私はずっとヤハルさんの勇者についての歌を聞いていた。
いやぁ、ヤハルさんの歌声がとっても凄いんだよ。
歌声が綺麗なだけじゃなくてね、その場面の映像を思い浮かべそうな抑揚の効いた歌声だった。
こうね、表情がね。
感情豊かのもポイントだね。
身振り手振りも良かった。
ミュージカルを見ていたようで私も大満足です!
今は狼の魔王と魔法使いの青年との戦いの場面を歌ってもらってる。
早いテンポで激しく歌う様子は実際に狼の夢を見た私にとっては納得のある物だったよ。
戦場の荒々しさ、狼の魔王の巨大さ、そして青年の戦い方がよく表現されてた。
これは私もお返しに何かを歌わないといけないね。
アニソンなら任せて!
オタクである私の十八番メドレーを聞かせてあげようじゃない!!!
いや、ここはゲームのBGMを魔力で流してみようかな。
「ーーー。
・・・そろそろでございます。」
そんな事を考えてたらヤハルさんが歌うのを止めた。
え、そろそろ貴族が来るの?
ヤハルさんはそのままドアへと歩いて行った。
「シズク様、わたくしはこれから貴族の方をお呼びして来ます。
失礼いたします。」
「はい。」
私に頭を下げて部屋から出て行った。
さて、これから罠でも張り巡らせなきゃね!
「静、忍、こっちにおいで。」
『うん。』
「なーにー、おかーさん。」
私はまず静と忍を呼んだ。
静はそのままトコトコと歩いてきた。
忍はスキルを消したのか姿を現せながら天井から落ちてきた。
猫みたいに空中で宙返りして綺麗に着地してドヤ顔と笑顔の混ざった顔でこっちを向いた。
もぅ、二人とも別々の可愛いさがあるよね〜。
え、二人を罠に使うのかって?
違う違う!
もしかしたら貴族の中に忍を見つけられる程の探査能力を持った人が来るかもしれないからね。
だから《時空間》で上空の亜空間で遊んでてもらおうと思ったんだよ。
「静、忍、今からお母さんは偉い人とお話をしないといけないみたい。
絶対つまらない話になるから二人とも、いつものところで狼と遊んだり忍者の練習をしたりしない?」
『おおかみ!』
「うん!
やるやる、忍者の練習をやるよ!」
食い付いたね。
先に空間を綺麗にしないとね。
不浄蟲の残骸とかゴブリン、狼の血とかで汚れてるだろうしね。
不浄蟲は隔離しといてっと。
「それじゃ、《時空間》。
はい、行ってらっしゃーい。」
『うん!』
「キャッホー!」
二人が空間の穴に飛び込んで行くのを見送った。
さて、とびっきりの歓迎をしてあげようじゃない!
よし、『娼婦』のスキルとかエルフのスキルとか状態異常付与とか色々と使って嫌がらせの準備をしとこう。
あとは不思議な道具を作っといてぼったくる準備もしとこう。
ふふふ、相手の貴族の態度次第で変えてやるもん。
あ、お茶とお菓子の準備もしないとね。
・・・こっそりと配下に入れる準備もしたいな。
だって勇者のユニークスキルなんて聞いたら欲しくなるのが元魔王の業ってモンですよ!
・・・石化の準備もしとこうかな?