第百六十二話 私、礼拝堂を覗いてみました。
わたしの名前はエッケン・バンガー。
マグル教の一人、教徒を纏めたり、女神メカルーネ様の眷属、伝言者テル様の御言葉を皆に広める司教をやっている。
わたしは敬虔なるマグル教徒ではない。
元は城の料理人であった。
伝言者テル様にわたしの料理の腕前を認められ今の地位にいる。
正直に言って神の言葉なんて興味もない。
しかし、伝言者テルがわたしの料理を認めてくれたのはタイミングが良かった。
当時はちょっと借金をしていて金に困っていたからだ。
バーニングボアの肉があんなに高いなんて、ぼったくりも良いところだろ。
今は伝言者テル様に出す料理を毒味しても良いって事で色々と食べれるのは願ってもない事だった。
わたしは作る事も好きだが食べる事も好きだ。
そして、最近になって想像もしなかった事が起きた。
異界の料理を食べる機会を得られるようになったのだ。
そう、異界から勇者が召喚されたのは知っていた。
その勇者の作る料理は絶品だ。
ハンバーグ、パスタ、揚げ物・・・。
中にはわたし達では作れない料理も有った。
見知らぬ材料を使った料理は再現は難しいのだ。
そしてその勇者の活躍によって伝言者テル様と一緒に食事を出来るようになったのだ。
毒味だと言ってコソコソと食べなくても堂々と食べられるようになったのは有難い。
ただ、全て良いと言う訳ではない。
「エッケンさん、女神メカルーネ様の眷属、試行者リドが誕生しましたわ!
そして新しい種族『ドッペルゲンガー』も誕生しましたわ!」
朝ご飯を食べ終わり、いつもの女神メカルーネ様の御言葉を我らに伝える伝言者テル様。
「はい、これが記録者アンが纏めた『ドッペルゲンガー』の情報ですわ。」
ああ、またか。
いや、喜ばしい事であるという事は分かっている。
女神メカルーネ様の新しき眷属の報せをいち早く知る事も名誉な事であろう。
その時の司教の名が後世に伝えられる程には名誉な事だ。
それが人生の内に二度もあるなどとは誰も想像しないだろう。
しかし・・・。
「はい!
ではその報せを皆に伝えましょう!」
あの地獄をまた、経験せねばならないのか。
部屋に入りきれない程の手紙を書いて。
文字の分からない者の為に絵も発注せねば。
後でマグル教徒に試行者リド様と『ドッペルゲンガー』なる者達の説明を兼ねた演説もせねばなるまい。
国王様にも伝えねばならんな。
んん?
『ドッペルゲンガー』は迷宮に住まう者と書かれているが迷宮とはなんだ?
後日作成予定?
まさか女神メカルーネ様の眷属、試行者リド様が建築されるのだろうか?
・・・迷宮の情報も伝えねばなるまいか。
まだ、夢想者コル様の種族『ゴースト』を見つけられていないと上から圧迫をかけられていると言うのにな。
いや、『ドッペルゲンガー』は何処に住まうかは情報があるだけマシか。
『夢想者コル様の種族『ゴースト』の住まう場所は色々』と書かれているよりもな。
色々では探しようが無いだろ。
ふぅ、何故こんなに忙しいのか?
わたしはただ、料理を作って食べるだけの生活を送りたい。