第百三十七話 私、リコール・アンダーソン・フレブラーナさんに会いました。
わたしの名はリコール・アンダーソン・フレブラーナ。
誇り高き帝国の民であり、精強なる帝国兵であり、そしてこの世界を守護する勇者でもある。
今回は任務で王国に来ている。
任務内容は異界から召喚された者、勇者の能力調査及び異界の情報収集だ。
姿や思想はもちろんの事、女神メカルーネの加護の効果、スキル、種族特性などの目標がどのような能力を所持しているかは今後の魔王討伐には欠かせない情報だ。
また、学者が異界からの侵略の可能性も挙げていた。
今回の事で世界の間に道が出来たと危惧されている。
もし、野心ある者が手に入れやすい土地が有れば攻め込むだろう。
それが世界規模で行われる可能性も考えられている。
異界の状況や軍事力などを目標から聞き出し備えなければならない。
表向きの任務は異界の勇者との親睦を深める事。
深雪からの魔物の処理で目標からの援護を受ける可能性もある。
親睦を深めて損はしないだろう。
わたしはこの任務を遂行してみせる!
コンコン。
「失礼します。
勇者シズク様をお連れしました。」
わたしが決意を新たにしていると扉から叩く音と目標が来たことを告げられた。
「おぉ、お待ちしておりました。
ささ、中にお入りください。」
わたしの連れが声をあげる。
元来、帝国の民は口下手な者が多い。
それで誤解を受けてしまいがちなのだがな。
この者は特別な訓練で口が達者であるからこそ連れてきているからわたしは目標の情報を整理するのが役目だ。
最初に部屋に入って来たのはこの城のメイドであろう。
次に黒髪に黒眼の奇妙な服を来た少女。
年はわたしと同じくらいか。
見た目は人族と変わらないようだ。
部屋に入ってくる時にわたしの顔を見て朗らかに微笑んだ。
笑顔が愛らしかった。
同性のわたしですら胸が高鳴る思いだ。
その次に少女を幼くしたような幼女だった。
先に来た少女に手を引かれて部屋に入って来た。
顔立ちが似ている事から血が繋がっているのだろう。
幼女は年に似合わず無表情であった。
二人を姉妹だと仮定しよう。
この黒髪の姉妹が異界から召喚された勇者なのか。
確か報告では勇者は一人であった。
ならばどちらかが勇者なのだろう。
「初めまして。
私は異界から召喚された勇者です。
早乙女 雫と申します。
こちらは娘の早乙女 静です。」
親子だったのか!?
子供は大きく成長しているぞ。
一体何歳の時に産んだんだ!?
見た目どおりの歳ではないのか!?
それよりも情報収集に集中せねば。
少女、シズクの方が勇者なのだな。
「わたしは人族の勇者、リコール・アンダーソン・フレブラーナです。」
「はい、わたしはアンバリー・デオネット・ロロイと言います。
いや〜、シズク様の御息女様は可愛らしい子ですな。
将来は母君であるシズク様に似てお美しくなられる事、間違い無しですな。」
「はい、ありがとうございます。」
目標は胸に手をやり目を瞑った。
帝国式返礼作法!?
我ら帝国の伝統ある御礼の気持ちを伝える作法の一つではないか。
偶然なのか?
異界にも同じ作法でもあるのか?
「貴女方の子らにも誉れ高き志を。」
「そして我らが子らよ、壮健なれ。
おぉ、これはこれは。
シズク様は知っていたのですか?」
「はい、聞きかじりでしたが喜んでもらえて何よりです。」
子供の将来を願う掛け言葉もか!?
近くのメイドが驚いてるという事は教えてなかったようだ。
独自の情報網を持っているのか?
目標が召喚されてまだ短い期間でか?
「勇者リコール・アンダーソン・フレブラーナ様、アンバリー・デオネット・ロロイ様、こちらからも貴女方を歓迎します。」
そう言って目標が手を前に出すとわたし達の目の前のテーブルの上にティーカップが現れた。
「魔力を物質化して作った物です。
私の故郷のロシアンティーと呼ばれている物で甘くて美味しいですよ。」
スキルか?
しかし、ティーカップやお茶を出すスキルなんて聞いた事がない。
「ほほぅ、これはまた珍しいスキルをお持ちですな。」
「いえ、これはスキルではなく私の世界の技術なのです。
ですからスキルとは別の物です。」
「なるほど、それはまた便利な技術ですな。」
スキルとは別物?
スキル以外でこんな事が出来るのか?
しかし目の前で出されたこのティーカップがその証拠だ。
「はい。
ですがこの世界の方にもお教えしているのですが出来る方が居なくて。
お茶が冷めてしまいますからどうぞ。」
「では頂きます。
・・・ふー、とても美味ですな!」
客に暖かいお茶を出す。
これも帝国の慣しだ。
寒い外から来た客人を暖かいお茶でもてなしをする。
帝国の民は自分の好きなお茶を客人に振る舞う。
帝国から出て初めてお茶を出された。
このことはあまり知られていない事なのだが目標はよく調べたものだ。
普通は毒が含まれるか注意をする所だが連れが飲んだので毒は無いようだ。
どれ、わたしも少しだけ飲んでみよう。
ん!?
熱過ぎずしかし身体の中から暖まる絶妙な温かさ。
口一杯に広がる上品な甘さ。
後味に少し残る甘い香り。
ロシアンティーとは初めて聞いたがとても素晴らしい!!
あぁ、なんて美味しいお茶なんだ。
「気に入って頂けたようで何よりです。」
それにしても目標の情報収集能力には目を見張るものがある。
彼女は何処まで帝国のことを知っているのか聞き出したいな。
あと、わたしでも卑しいとは思うががロシアンティーのお代わりも欲しい。