実
春、花が咲く。
夏が終え、
秋になり、
冬を越し、
それでも実はつかぬ。
樹齢十七年の梅の木は焦った。
おかしい、おかしい、周りの木々はもう実を落としたというに。
何故、何故、実がつかぬ。
花は咲いている、花は咲いている。自ずとて惚れ惚れする香りを放っている。
実がつかぬ、理由がわからぬ。
時が経ち……
また、春が来た。
ウグイスが枝にとまる。花の香りをうっとりと楽しんでいる。
また、夏が来た。
蛍が飛び交うなか、梅の木は青々と葉を茂らす。
また、秋が来た。
葉は、紅く染まりてすぐに散った。
また、冬が来た。
つぼみをつけ、希望を胸に春に備える。
樹齢十八年の梅の木は切に祈った。
今年こそ……今年こそ、実をつけてみせる。
去年より……ずっと、ずっと、良い香りを放ってみせる。
梅の木が実るか否かは、天に委ねられている。
実るが当然……それは、愚かな考えであろう。