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攻防戦

■6月13日


すっかり忘れていたが、新規事業チームのメンバーに入っているのである。

そのことで相談ができたのでしぶしぶシステム部に向かう。

と、いってもすぐ後ろなわけだが。

仕事中にメッセで、

「エロゲーよこせ」「いやだ」

「お願いしますからください」「じゃ、探しておく…」

と、そんな親密な会話を交わすM野氏に相談を持ちかける。

会話中に、ふと目に入ったのは、

黄色くぷるぷるとふるえるとても可愛らしいプリン。


あれが、欲しい。

どう考えても、あのプリンは私に食べられるのを待っている。

というか、それが天の理な気さえしてきた。


「M野さん、あれ、美味しそうですね」

「う・・・・」

「いや別にお腹なんか空いていないですよ。

でも、とてもとても美味しそうですね」

「いや・・これは僕の・・・おやつ・・・・」


プリンから目を離さない私に危機感を抱いたのか、

M野氏は机を漁りだす。


「ほら、サラダせんべい!これあげる、これあげる」

「わぁい、サラダせんべい好きー。いただきまーす」


ゴリゴリとサラダせんべいを食べる私を見て安心したのか、

M野氏もプリンに手をのばした。


「あ」

「う・・・?」

「いやいや、何でもないですよ。

どーぞどーぞ、サラダせんべいを食べてる私の前で、

好きなだけそのプリンを食べてくださいまし。

いやいや別に何も気にしませんから」

「・・・・・・・・・・」

「サラダせんべい美味しいなぁ、

でもそのプリンもなんだか美味しそうだなぁ。ふふー」

「・・・・・・・・・・」


そうしてM野氏は、ふいにすべてを諦めきった修行僧のような顔をしながら


「キクゾウさん、このプリン食べていいよ・・・・」


なんて!

なんて男前な人なのだ。

自分のおやつに買っておいたプリンを、

何のためらいもなく私にぽんとくれるなんて!

そんな彼の好意に応えるべく、私も最上級の笑顔を浮かべつつ、

「ありがとうありがとう!!!何ていい人なんだ。

このご恩は次にプリンを貰うまで忘れないよ!」

続けて、


「本当にありがとう!でもね、プリン嫌いなんだよね。」

「・・・・・・・・・・」


こうしてM野氏をからかうだけからかって満足した私は席に戻る。



が、やはり神様は見ていた。



すっかり上機嫌で、

「さて最新ホモゲー情報でも見ようかな」

とネットに繋ぐと

1・2分程で切断されてしまう。

そしてつながらなくなってしまった。

つい今さっきからかったばかりのM野氏の元にまた向かう。

「なんか切断されちゃうのですけどー」

大人なM野氏は先ほどの屈辱の片鱗も出さずに

「今直したからつながるはずだよ」

「あら、どーもどーも」

確かに席に戻ってみると直っている。

しかし、「じゃ、ホモゲー情報を」と思うとまた切断されてしまうのだ。

4度目くらいだろうか。

温和の固まりのような私もさすがにキレた。


「M野さんっ!なんでこの会社のネットワークはこんなに調子悪いんですかっ!?」

「いや、ネットワークが悪いわけじゃないよ」

「じゃ、なんでこんなブチブチ切れるんですかっ!?」


そして、M野氏はニヤニヤ笑いながら、



「だって、僕が切ってるんだもん。」



私を見ていたのは神様ではなく、M野氏であった。



システムネットワーク部の特権と陰湿さをまざまざと見せつけられた私は、

結局、新規事業の話が一歩も進まなかったのはM野氏のせいに違いない、

と傷心を抱えつつ書類の山をボンヤリと見つめるのであった。


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