誠実と不誠実
6月17日
仕事場の私の前の席に、O嬢という方がいる。
社内で一番可愛らしいと評判の方だ。
実際可愛い、顔も性格も。
そんな彼女が、椅子から立ち上がりかけ、
また腰を下ろした私に声をかける。
「キクゾウさん、キクゾウさん」
「ん、なんでしょ?」
「はい、おすそわけ」
そう言って彼女はやけに神妙な顔をしながらクッキーを渡してくれた。
礼を述べつつ、しかし、あまりにも難しい顔をしているので、
さすがに不審に思い訊ねてみる。
「どうしました?」
すると彼女は少し困った顔で微笑みながら、
「んー、ちょうどね、見てしまったの」
「うん?」
「キクゾウさんがね、立ち上がったあと、眉間にシワを寄せた瞬間を」
「ん・・・」
「こうね、キュっと寄ったの、怖い顔して」
そしてまたおもむろに真剣な表情をすると、
「何か心配ごとがあるなら、いつでもいってくださいね。
相談のりますから。ね?」
と言いながら「オマケッ」とクッキーをもう一つ手渡してくれたのである。
言えない。
とてもじゃないが言えない。
その立ち上がった瞬間、
先日M野氏にもらったエロゲーが、コピーに失敗していたからといって、
激しく罵ろうとしたところ、どうやらM野氏が仕事の電話の最中だった為、
「ケっ、まじめに仕事してやがる」
と、小さな舌打ちとともに、憤慨してまた腰を下ろしたところだったとは。
とてもじゃないけれど、私には言えそうもないのです。
ごめんなさい、こうして人を裏切って生きていくのです、私は。