犬歯
体についてのやりとりも一段落し、俺はメイサさんに、
おそらく別の世界からこの世界に来てしまった事、この世界に来てから、
人狼に襲われ、二丁の拳銃を扱う女の子に助けられた事を洗いざらい話した。
メイサさんは、本当に親身な方で、俺が言った嘘みたいな真実を真剣に聞いて、
今後のことを考えてくれているようだった。
「ところで、この世界には魔法はないんですか?火を出したり、時空を移動したり。」
俺がこの世界に来てしまった原因を調べるため、異世界あるあるを聞いてみる。
「そんな都合のいいもんありゃしないよ。
だから、あんたが、どうやってこの世界に迷い込んでしまったかはわからないんだ。」
力になれず、申し訳なさそうに答えた。
「ただ魔法と呼べるものはないのだけど、一部の血族のヴァンパイアが、
禁忌とされている術式を研究しているって噂を聞いたことがあるよ。
禁忌なんて物が存在するかも定かではないから、信憑性は低いのだけどね。」
人狼の次は、ヴァンパイアですか…… もはや、魔女でもゾンビでも何が来ても驚かないぞと決意を固める。
「じゃあ、そのヴァンパイアに会って、禁忌とやらを教えてもられば良いわけですね。」
単純に考えればそうなる。
「ほとんどのヴァンパイアは教会と敵対しているからね。そう簡単に事は運ばないさ。」
「力ずくで聞くくらいの覚悟でないとね。」
ヴァパイア相手に力ずくだって!?
元の世界に帰る難易度が劇的にあがったのを感じた。
「それだったら、教会学院に通うといい。ヴァンパイアと戦う術は学べるし。この世界のことにも少しは詳しくなれるはずだよ。あたしが事情を説明して、明日から編入できるようにしておくよ。」
メイサさんはやっと力になれそうなことを見つけて、やる気に満ちあふれていた。
今のところ、一般市民の俺がヴァンパイアを力でねじ伏せられるかは置いておいて、右も左もこの世界のことはわからなかったこともあり、メイサさんの親切を受け入れることにした。
「ありがとうございます。見ず知らずの俺のためにここまでしてくれて。」
「良いってことよ。まだ体も本調子ではないのだから、休んでいなさい。晩ご飯にはまた呼びに来るから。」
メイサさんは布団をかけ直して、部屋から出ていった。
メイサさんの話から、この世界は、元の世界で読んだ本”ヴァンパイアハンターA”と世界観が似ていることに気がついた。
もう少しこの世界について考えを巡らせたかったが、大学に入りそびれた浪人生にとって、これから学生生活が始まると思うと興奮が治まらず、あまり難しいことは考えられなかった。
体を横にしながら、期待に旨を膨らませている最中、口の中で違和感を感じた。
いつもと噛み合わせが違うみたいだ。
手で歯をに触ってみると、犬歯がやや鋭くなっていた。