本の暗闇
窓から夕日が差し込んできた。夕日による反射で携帯の画面も見にくくなってきた。
仕方なく、辺りを見渡すと、制服を着た中学生、高校生、大学生といった学生諸君は
机に向かって、一心不乱に勉強をしていた。
居眠りをしているのは、本当に一部の学生と、
その年で何を勉強しているかわからないオジ様くらいのものだ。
本当に何が楽しくて勉強するのか。
数列、ベクトル、行列。
俺は行列ができる店は嫌いなんだよ。
もとい数学の行列なんか好きになれる訳がない。
図書館の自習室の机に問題集を枕代わりに頭を突っ伏して、
考えて悩んでいるものの眠気ばかり襲ってくる。
「休憩だ、休憩。」
図書館の自習室は四階にある。気分転換に本でも少し読もうと思い、三階に移動する。
三階の壁には背丈より高い本棚が並んでおり、昔懐かしい童話から、最近の小説まで揃っている。
フロアには、壁に並ぶ本棚ほど高くはないが、背丈より少し高いくらいの本棚が数多く配置されている。
本当に本が多い図書館だ。
俺はこの図書館が好きだ、幼少の頃から一人で本を読みにきており、多くのときを過ごしてきた。
しかし、残念ながら、ここの図書館はあと一ヶ月で閉館してしまうのだ。
大学受験に落ちたこと、幼少の頃から通っていた図書館が閉館してしまうことを考えると、
センチメタルな気持ちになる。
そんな感傷に浸りながら、本棚を眺めていると、少し埃を被っているが、懐かしい本が置いてあることに気づいた。
"ヴァンパイアハンターA"
西洋の童話で、ヴァンパイアに民衆が脅かされている世界で、
教会がヴァンパイアを討伐するため、ハンターを養成して、反旗を翻す物語だ。
童話ではあったが、教会から派遣されたハンターと、ヴァンパイアの攻防がスリリングで
当時中学生だった自分も興奮したのを覚えている。
俺にはきっとヴァンパイアの血が流れていると、中二病に被れたのもいい思い出だ。
そんな思い出に浸りつつ、本を手に取り、流し読みを始める。
そうそう、この本に出てくる女ハンターが格好良かったんだよなぁ。
人の重さを感じさせないように宙を舞い、ヴァンパイアに銃弾を浴びせて行く、二丁拳銃使いのハンター。
名前は確か、アスハ…… なんだっけ?
お気に入りだった登場人物の名前も思い出せない。
ましてや最後の結末も覚えていない。
ただ面白かったという気持ちだけは覚えており、物語の結末が気になっていく。
本を擦るようにページを次々めくっていった。
結末を知りたいという気持ちとは裏腹に、後半に進むに連れて、紙面が黒ずんでいて、文字が読みにくくなっていた。
そして、あと数ページってところで、紙面が真っ黒で文字は読めたものではなかった。
これでは、結末はわからない。
その時だった。
両開きになった真っ黒のページの色味が徐々に深みを増して、光を飲み込む漆黒のように変化した。
そして、漆黒の闇は波打ち水面のように、紙面から本を持っている手、腕と、飲み込んでいく。
「うぁ、あぁぁぁ!」
情けない声が図書館に響くのもつかの間、闇は体中を飲み込み、再び、思考だけの暗闇が訪れた。