懐かしい感覚
絶対にするな!
と禁止されると、必ずやりたくなってしまうのが人間の性だ。
ましてや、よくわからない世界で、人型の獣に追われ、目の前には二丁の拳銃を巧みに扱う女の子。
こんな状況で目をつぶれと言われても、正直無理がある。瞬きするのも惜しいくらいだ。
そんな事を考えてる最中、掛け声とともに彼女の回し蹴りが、頭上をかすめる。
すぐ頭上まで迫っていた人型の獣に、蹴りが見事に炸裂したことにも驚くべきだか、急に雑念というか、煩悩が強引に割り込んできた。
清純の白か。
一筋のラッキパンチに危うく声を漏らしそうになったが、理性でなんとか抑えた。
振り返り立ち上がろうとすると、次の人型の獣が彼女の銃の雨を食らっているところだった。
間一髪、死なずに済んだか。
だか、すぐ後ろにいたもう一体に彼女は反応しきれていない。
助けなきゃ!
災難ばかり、不運続きの運命を振りまく神に代わって、今この瞬間、彼女は白い幸運を垣間見せてくれた……と、こんな戯言は横に置いておいて。
彼女には、何か懐かしさのようなものを感じていたのだ。
初めて会ったばかりのはずなのに。幼なじみであるかのような感覚。
そんな思いが、自然と彼女を覆うように人型の獣と彼女の間に、体を割って入らせた。
背中に激痛が走る。
先ほどまでの痛みとは比べものにならない。熱された鉄線で切り裂かれたような痛みだ。
痛みに耐えきれず膝をつき、倒れ込んだところを、今度は首筋に痛みが走る。
噛みつかれたか、食いちぎられる。
その瞬間、再び銃声が嵐のように響く。
痛みが絶頂を向かえる。
そういえば、なんでこんなことになってるんだ。
高校の時、特にやりたいこともなかったし、ただ周りのみんなが大学を受けるという理由で、思いもなく大学を受験した。
興味のない勉強に熱が入るわけもなく、結果はものの見事に不合格。
華の大学生活とは一変して、薄暗い浪人生活がスタートした。
予備校は特段仲の良い友人はいなかったが、特に相手に取り繕う必要もなく楽な環境ではあった。
そう、そういえば、予備校の帰りに図書館に寄ってたんだっけ。
思考だけの暗闇の海から、走馬灯のように、映像が浮かび上がってきた。