小さな魔女
残酷な描写ありにしてありますが、それほど残酷な描写はありません。
昔々ある所に、不思議な力を使える女の子が居ました。
女の子はその力で村人を助けたり、枯れた森を元に戻したり、植物や動物と話をしたり出来ました。
村人は女の子に感謝しました。
でも村人は気付きました。自分達の信仰している教えの中に出てくる、悪い魔女に女の子はそっくりなのです。
次第に女の子は魔女と呼ばれ嫌われる様になりました。
「あの子はきっと魔女なのよ」
「呪いを掛けられるぞ」
「こっち見ないで!」
「魔女の癖に店に入るな!」
絵本などで悪い魔女の話を知っていた魔女は、悪い事などしていないのになんで魔女と呼ばれるのか分かりませんでした。
嫌がらせは日に日に増し、人に話しかけても無視され、同い年の子供達には石を投げ付けられました。
ある日、魔女の両親は流行り病にかかり死んでしまいました。
両親の死を待っていたかの様に嫌がらせは更に増し、魔女は十歳にして村を追い出されてしまいました。
魔女は森の中の大木に許可をもらって、その下に動物達の力を借りて自分の家を建てました。
それから魔女は植物や動物達と仲良く暮らしました。
長い間暮らしているうちに魔女はある事に気が付きます。
森に入ってから自分の姿があまり変わっていないのです。身長は確かに伸びていますが、それにしては成長が遅いのです。
自分の姿が変わらない事に最初は戸惑いましたが、森に人間なんて滅多に入って来ないので気にしなくなりました。
さらに長い年月が経ち、魔女の住んでいる森に人間が入って来ました。
長い間人と関わらなかった魔女は今なら人間に受け入れて貰えるのではないか?と思い人間に会いに行きました。
「あの〜」
「な、なんだ君!? その格好!?」
「へ?」
魔女は忘れていました。
魔女と呼ばれる以前の服と同じ服を何着か着回し続けていたはずなのに、自分の服を見てみるとツルや苔が生えボロボロになっていました。
「あ……あ、これはーー」
「ま、魔女だぁー!! 逃げろぉ!」
人間達は魔女から逃げてしまいました。
「……なんで? なんでみんな私を魔女なんて呼ぶの? なんでみんな私を嫌うの?」
魔女は自問自答を繰り返しながらひたすら泣き続けました。
数日後の満月の夜、森の動物達が一斉に逃げ出しました。様子がおかしいと思い家から出ようとした魔女は驚きました。
魔女の家の前に沢山の兵士と村人達が武器を持って押し寄せてきたのです。その中でも歳をとった者達は魔女を見て驚きました。
「お、お前! あの時の!」
「なんで歳をとって無いのよ!」
「やっぱりこいつは魔女だったんだ!」
「じいちゃん、やっぱりこいつって」
「あぁ、こいつはわしらの村に取り付いていた魔女じゃ!」
魔女も驚きました。本当に自分は人間と違う生き物らしい。
騒ぐ村人達を掻き分け教会の神父とシスター達が出てきて魔女をじーっと見つめると、神父は魔女に向かって言いました。
「これより、この薄汚い魔女からこの森を解放する!」
「何するの!? 止めてぇえ!!」
神父の指示で村人と兵士は魔女の家に火矢を放ちました。
「取り押さえろー!!」
「きゃぁあああ!?」
魔女は村人達に取り押さえられ神父達が用意した十字架に縄で縛り付けられました。なんでこんな酷い事をされなくてはいけないのか魔女には分かりませんでした。
燃えていく自分の家をただ見るしか無い魔女に神父は分厚い本を片手に何かを読み上げると、兵士に指示を出しました。
魔女は十字架に縛り付けられたまま村の広場まで運ばれました。
村は魔女の居た頃より大きくなり街と呼べるまでになっていました。
広場には沢山の人が集まっていて魔女狩りを一目見ようと押し合いへし合いしていました。
魔女は更に大きな十字架に縛り付けられました。魔女を縛り付けた十字架を兵士が垂直に立て固定しました。縛り付けられた魔女は広場全体が見える高さに恐怖し暴れました。
兵士達が十字架に焚き木をくべ始め、縛り付けられた魔女に三人のシスターが油を掛けました。
「ゲホッゲホッ! ……止めて下さい。お願いします。お願いします……」
魔女の言葉は街の人や神父には届かず、今度は顔を布で隠した兵士が松明を持って近づいて来ました。
自分が燃やされると分かった魔女は必死に暴れました。
「動くな!! 邪悪な魔女め!!」
兵士達に魔女は鞭を打たれました。
魔女は暴れるのを止め静かになりました。
それから何度も執拗に鞭で痛めつけられた魔女は泣くのを止め、意識を失いました。
兵士が木に火を付けました。徐々に火が魔女に迫って来たその時、近くに居た兵士達が吹き飛ばされました。
「な、なんだ!?」
「やばい! 早くもっと火をー!!」
兵士達は慌てて火矢を準備しました。
魔女の目は赤く光り体からは黒い煙がモクモクと出てきました。
煙に触れた縄は溶けて無くなり魔女は十字架から解放され飛び降りました。
煙に触れた炎は青くなり、十字架は青い炎で一瞬で灰になりました。
兵士達が剣を抜き魔女に襲いかかりましたが、黒い煙に触れた瞬間に石になってしまいました。
「駄目だ! 逃げろー!」
「きゃぁあああ!」
「悪魔だぁあ!!」
魔女から溢れ出る黒い煙はその量を増し、街は恐怖で顔が歪んだ石像で溢れかえりました。
数時間後、魔女は街外れで目を覚ましました。
頭痛がしてフラついている魔女は自分がなんでここにいるのか分かりませんでした。
「ひッ!?」
魔女のすぐ近くに泣き叫ぶ子供達の石像がありました。よく周りを見れば他にも沢山の石像が魔女から逃げるように背を向けて立っている事に気付きました。
魔女は森に逃げ出しました。
ですが自分の家は燃え尽き灰になっていました。
魔女は蹲り、訳も分からず泣きました。
それから数ヶ月が経ちました。
ある日、魔女は森にやって来た女に問いました。
「貴女には私が魔女に見えますか?」
女は背が高く、真っ黒な髪、真っ黒なドレスに真っ黒なマント、真っ黒な三角帽子を被って長い杖を持っていました。
女は魔女をじっくり見るとニッコリと笑顔で、
「えぇ、貴方は小さくて素敵な魔女よ。将来が楽しみだわ」
言われて魔女は背筋がゾっとしました。
よく見れば女は人間などではない。絵本に出て来る魔女そのものではないか。
魔女は少し怖くなった。
「あ、貴方も魔女なんですか?」
「そうよ。私は隣の森に住んでいる魔女。最近この森に魔女がいると聞いたから来たのだけれど、まさかこんな可愛い魔女だったとは」
隣の森の魔女は小さく笑いました。
魔女はその笑いが何に対しての笑いかが気になりました。
自分が小さいからか。
自分が汚いからか。
魔女として自分が未熟だからだろうか。
「あら、どうしたの? 何故泣いているの?」
魔女は泣いていました。自分でもよく分からず、ただ泣いていました。
隣の森の魔女は優しく涙を拭うと言いました。
「はい、これをあげる。小さな魔女さん」
隣の森の魔女の手の平から綺麗な光輝く小石が現れました。
小さな魔女はそれを手に取るとすっかり元気になりました。
「実は私、自分が魔女だって知らなかったんです。みんなに嫌われて……一人でーー」
「可哀想に。辛かったでしょう」
隣の森の魔女は不思議な雰囲気を出し続けていましたが、帽子を脱ぎ真剣に小さな魔女の話を聞きました。
一通り話が終わると隣の森の魔女は小さな魔女に提案しました。
「私が魔女の事を教えてあげましょう」
「え?」
「貴方は最初から人間では無かったの。魔女というのはね、人間に似ているけど人間では無いのよ。嫌われたりもするけど人間以外は私達の友達なのよ。だから貴方は一人じゃないの」
隣の森の魔女は続けます。
「貴方が良かったら私の弟子にしてあげましょう。最近一人で退屈だったのよ」
「弟子って何をするんですか?」
「魔法を学んだり、手伝いをしたり色々よ。どうかしら?」
「……家族」
「ん?」
「私を家族にして下さい」
隣の森の魔女は小さな魔女の言葉に思わず笑い出しました。
「それでも良いわよ。さぁ、そうと決まれば支度して来なさい」
「はい!」
荷物と呼べる物はもうありませんでしたが、小さな魔女は自分の家があった場所に戻りました。
「今まで迷惑を掛けてごめんなさい。私、この森を出ます。お世話になりました」
そう言って魔女は自分の家があった大木を後にしました。魔女が去ると同時に木々が葉を揺らしました。
「支度は済んだのかしら?」
「はい。荷物はありません」
「そう、では行きましょうか。私の森は楽しい場所よ。貴方も気にいるわ」
二人は隣の森を目指して歩きました。途中、街の近くを通り石像を目にした隣の森の魔女が何か言おうとしましたが、表情を暗くした小さな魔女を見てやめました。
代わりに隣の森の魔女は杖で地面を軽く二回叩きました。
すると辺り一面に沢山の花が咲き乱れました。
「うわぁ! すごーい!」
「ふふ。さぁ、日が暮れる前に行きましょうか」