始まりの記憶
4月1日はエイプリルフールである。
嘘をついても良い日だが、嘘であると願いたいことが起こったのだ。
俺達、家族はその日、引っ越しのために車に乗っていた。
C県に向かう途中の俺達、山田一家の車の中はこうだった。
「光、ゲームばかりしていないで少しは外の景色でも見たら」
光と呼ばれたのは、俺。山田光、今年から大学に通う一年だ。
そして、俺が今しているゲームが「ヒストリー恋絵巻」。歴史上の人物が現代の高校生になり、対象攻略者になって恋愛を楽しむという定番のゲームだ。
俺がやっているのは「源氏物語」、紫式部が書いた作品だ。
現代の女子高校生や女教師として登場してくる。
歴史好きにはたまらん作品だ。
「光、そんなに面白いかそのゲーム」
「ああ、光のお下がりで母さんもやってるよ」
「そうなのか、小百合」
「え、ええ。面白かったですよ」
妹は俺と同じで漢字で「光」と書いて「こう」と呼ぶ。面倒くさいのでこれから統一してコウにしよう。
コウは中学2年生。思春期真っただ中だ。
コウも「ヒストリー恋絵巻2」をしていた。2は戦国武将がメインの学園ものだ。
今は俺達の母親の小百合がやっている。
俺達、家族の共通の趣味が歴史が好きであることである。
母親とコウが歴女ならば、俺と父親は歴男と言っても過言ではない。
「おおっ、ちょっと珍しいトンネルだな」
親父が言った。
山から削ったトンネルだろうか、コンクリートで固められていて無機質な感じがする。
トンネルの正面の左側に大きなこけしが右側に市松人形が置かれて不思議な感じがした。
ここを通る車がなく、静かだった。
カーナビを見ると画面が真っ黒くなって、ここが何処だか、分からなくなっていた。
「困ったな」
「どーしたの、あなた」
「いや、迷子になったみたいでね」
「なーんかあたし、嫌な感じがする」
「親父、速くトンネル行こう」
「そうか、それじゃ行こう」
不思議なトンネルの中に入る。
暗闇の中を車が走る。
それから、しばらくしてトンネルを抜けた。
そこからの記憶は無かった。
ただ、眩しい位の光の中で俺達、山田一家はバラバラになった。
そして、最初に戻る。