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しっぱい。
いつものバス停にて――
「う〜ん……こんやのゴハンなんにしよ〜かな? ナベかな? ふゆだし。なにナベにしよ〜かな――カキにフグにアンコウにゲッター――」
イブキがスマホのアプリでカロリ〜や栄養の計算をしながら今夜の夕飯を考えている。
「イブキって」
そんなイブキに月夜がふと何かを思いついた様子で問いかける。
「ん〜?」
「イブキって毎日料理してんだよね?」
「そだよ」
「たまには失敗とかしないの?」
「あるよ。う〜んとね……カレ〜」
「カレ〜? カレ〜なんて失敗しようがないでしょ?」
「それがね〜あまってたダイコンをいれたらね、おみずがでちゃってシャビシャビに――」
「あ〜なるほど」
「ほかには、おと〜さんがど〜してもバナナいれるってきかなくて」
「バナナ? おいしそ〜だけど……」
「アマくてマズいカレ〜になちゃった……でも、おと〜さんのせいでイブキさんわるくないから」
「アマいのか……」
「そ〜ぞ〜をぜっするほどマズいよ」
「そ、そうなんだ……」
「こんど月夜につくってあげるネ」
「いや、いい!」
はじめて月夜がゴハンの誘いを断った日だった。




