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金剛は出ていった。大沢木は脱力状態。
神は囁いた。
千載一遇のチャンスであると!
禊とは”穢れ”を祓う行為である。神様は”穢れ”をきらう。穢れとは目に見えないものも含み、現世で犯した罪であるとか、死にかかわるもの、もちろん日常の垢や汚れ、”聖域”に不要な一切が含まれる。
そのために、巫女や神主は神事をおこなう際には、禊や忌み篭りなどの方法で、身についた穢れを祓う。そして、無垢をあらわす白や朱の衣装を纏い、神への近づきに許しを請う。このため、正当な巫女は純潔を守る処女にしかその役目を果たせなかったとされる。
あえかは井戸のそばで禊ぎを行っている。
はやるこころを抑え、家の裏側にある井戸へとちかづく。
細心の注意をはらい、獲物へと忍び寄る姿はまさしくハンター。職種は下着泥棒か出歯亀野郎だ。
バシャッ!
ギラギラ輝く目ツキでハァハァと鼻息荒く、隠れた場所からこっそり覗く。
「ごっきゅん」
襦袢一枚だけを身につけ、目をつぶって一心に神に祈りをささげるあえかの姿がある。つるべ落としを引き上げ、桶へと移し替えて全身に水を浴びせる。
バシャッ!
見よ。薄衣一枚が透けるなまめかしい肢体。濡れた肌に張り付くエロティシズム!
見よ。あのくびれ。ミロのビーナスだって勝てはすまい!
見よ。ぬばたまに輝く漆黒の髪。跳ねた水さえ美しい!
見よ。張りついた布に浮かび上がる二つの双丘。なんと、下着すら着けていないのか!?
見よ。それなら下もか!? もしかしてそうなのか師匠!? これはたしかめねばならん非常事態だ!!
見よ――もはやどうでもいい!!
日和のなかで1ミクロンくらいでつながっていた理性のタガが勢いよく外れる。
「しぃぃぃしょおおおぉぉぉぉ!!」
「!」
ギネス記録をこえる早さで学生服を脱ぎ捨てた日和が、あえかに向かってすさまじい速度で突進していく。
「そんな格好、オトーサンは許しません!!」
自称オトーサンこと春日日和はあえかに向けてこれ以上ないほどスケベな顔を向けていた。
あえかは水の入った桶をつかみ、日和に向けてぶちまけた。
じゅー、と水蒸気があがる。
「この程度で今のこのオレをとめられるものかぁぁぁ!!」
ふははははは! と笑いながら、不気味な光を宿した瞳が一直線にあえかの胸を目指す。
「今日こそもらったー!!」
あえかはカラになった桶を前につきだした。
日和の目の前が真っ暗になる。
「みえん! 何もみえんぞー!!」
「はぁぁぁ――憤ッ!」
あえかの渾身の一撃。
まっすぐ降下したチョップは出歯亀野郎の脳天にたたき込まれた。
桶がパカリと割れる。
現われたあたまが薄笑いを浮かべ、一歩進んだ。
プシュッ
今朝がたの開いた傷口から再度赤い水が噴きだす。
「……わが人生に、悔いなし」
おまえはそれでいいのか。
拳を天に向けることもなく、日和はどう、と地面にたおれた。
ピクピクと断末魔の痙攣を繰り返しているが、誰も心配するものはいなかった。
「はぁ」
あえかは水に濡れた髪をかきあげ、細い息を吐いた。こぼれ落ちる水滴が瑞々しい肌を伝って地面へ落ちる。
「わたし、見所あやまったかも」
気づいた時点で遅い愚痴であった。




