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チチチ…
チチチチ……
雀の声。
今日もまた、やわらかくオレのほほへと注いでくる。
ああ、朝だ。
眠い。
もう五分寝ていよう。
「春日君」
体がゆすられる。
うーん、誰だ。ひとの安眠を妨害するのは。そう言うヤツは馬に蹴られて死んじまえ。
「朝ですよ」
そんなことは分かっている。
なぜ人間は朝だからといって起きなければならないのだ。
早起きしたからといってなにか得があるのか。早起きは三文の得だと。
ウソつくんじゃねー! オレが今まで早起きして得したことなぞ一度もないわ! 早起きの目的なんざせいぜい小学生の頃に8:00からやってた戦隊ものを欠かさずみたことくらいだ! ガキレンジャー最高っ!
「起きなさい」
ムムム。
今日はなんだかしつこいな。オレは低血圧なのだ。つまり朝に弱く、夜にも弱い。人間の活動時間の二分の一くらいがオレの睡眠時間に当たると言っても過言ではない。寝る子は育つ。オレはまだ背が伸びたい。むにゃむにゃ…
「春日君」
ブチッ
「うるさいわーー!!」
オレは布団を跳ねあげ、快適な睡眠時間を削ろうとする悪魔に向けて怒鳴りつけた。
「おはようございます」
天使がほほえむ。
やばい。
なんだこの美しい笑顔は。
輝いている。
天上の花のように。白いエプロンが目に眩しい。
太陽なんかこの輝きに比べればチンケな蛍光灯の灯りだ。コンビニとかで夜中蒼白く光ってバチバチ虫殺してるあのレベルだ。この笑顔は世界を救う。
「ご飯ができましたよ」
「ご飯」
「はい」
ご飯が出来ていると天使はいう。
目の錯覚か?
なぜこの天使に翼が生えていないんだ?
あたまに輪っかもついていないじゃないか。
これがウワサに聞く堕天使というヤツか?
地上に落とされて翼と輪っかをなくしたのだ。
それならオレはこの堕天使に操奪われてもかまやしない! つーか、人生すべてあなたへの貢ぎものに捧げます。
いや、待て。
冷静に考えよう。
オレはまだ、生きているのか。
「あの、すいません。オレって生きていますか?」
「はい。そのようですね」
わずかに困惑しながら答えるあえか様。
ム。
そうじゃないか。
その、この女性はあえか様だ。
オレの師匠であり、『真心錬気道』の遣い手。容姿端麗頭脳明晰性格比較的おおらかぬばたまの髪輝く大和撫子。
その彼女がオレを起こしに来て、ご飯ですよと言う。
それはつまり、オレたちは夫婦。
「あえかあああああ!!!」
すべてを理解したオレは衝動のままにパジャマを破り捨て、パンツ一丁で彼女の胸に飛び込んだ。
「溌ッ!」
ぐるんと視界が回転し、脳天から畳の上にぶつかる。
ゴンッ
受け身なんてとりようがない。
「目が覚めました?」
「…………」
日和の意識はすでになかった。
「困りました。また寝てしまったんですね」
困ったふりをしつつ、あえかはもとのように日和を布団のなかへと押しこんだ。
枕をドクドクと赤い何かが刻々と濡らしていく。
「うーん……」
隣がもぞりと起き上がる。
長髪が寝ぐせのせいでぴょんぴょん跳ね、布団にくるまったまま伸びあがる。
いまの騒動で目を覚ましたらしい。
眠そうな目でアクビをすると、大事そうに枕を抱え、寝ぼけまなこにあえかへたずねる。
「ママー、ご飯できたのー?」
あえかはやさしく微笑んだ。




