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 旧校舎。


 そこは、整然と建てられ、学生たちの毎日の清掃により小綺麗に整備された校舎とはちがう。

 老朽化ろうきゅうかした建築材。割られたいくつもの窓。夕やけの明かりさえとどかない教室。れ果てた樹木にとまる黒いカラスのむれ。目の前をとおりすぎる黒猫の親子が3匹……


 日和はすでに不安を隠しきれなかった。


 彼の背中には、あえかが必要と判断し、厳選げんせんしたおはらい道具一式がつめこまれている。入りきらずに飛びだしたさかきの木のサワサワとこすれ合う音を聞きながら、オレはまちがった選択をしたのかもしれない。と、すでに後悔しはじめていた。

 みすずと大沢木は荷物ももたず、手ぶらで旧校舎を見上げている。


 日和はいまさらながらに思った。


「おまえら! 半分くらい持てよ!」

「えー。あたし、はしより重いモノ持ったことないしぃ」

「そういうあからさまなウソをつくヤツには全部もたせるぞ」

「あたし、アイドルだしぃ」

「背負え」


 大沢木は日和に声をかける。


「ひーちゃん、重いなら持ってやろうか?」

「いっちゃん、おまえはやっぱいいやつだよ……みすずはイヤな女だ」

「なによー!!」


 あえかは三人をみながら、校長に声をかけた。


「ここに、悪霊が出るというのですね?」

「はい」


 あえかの霊感も、この旧校舎にはつよい気配を感じとっている。


「わかりました。それでは、今から除祓じょふつの作業に入ります。春日君、荷物はあなたが持ちなさい」


 がーん、と打ちひしがれた日和を捨て置き、あえかは中に入った。つづいてみすず、そして大沢木になぐさめられながら、日和が最後に入る。


「それでは、よろしくおねがいします」


 深々と校長が頭を下げる。

 彼らの気配が消えたあと、キィ、という車輪のまわる音とともに、人の気配があらわれる。

 人影は校長にむけて何事かをとなえると、手を突きだした。その瞬間、背広のなかから、紙きれが飛びだし、空中で四散する。


 はっ、と気づいたように校長はまわりを見回す。


「わたしは一体」

「校長先生」


 車椅子の少年が、自分に声をかける。


「キミは――あずま君だったか」


 全校生徒の名前まではおぼえていないが、学内の優秀な生徒の名前は記憶している。

 彼は、中学時代に学生論文の発表会で準優勝をかざり、推薦すいせん入学してきたわが校の優秀生徒だ。成績優秀、容姿端麗。だが、唯一足のケガで車椅子を余儀よぎなくされていることが不憫ふびんだった。


「遠出をしたらこんなところにまで来てしまいました」

「そうか。なら一緒に校門まで行こう」


 そう言ってから、自分はなんのためにここに来たんだったか? と、いぶかしむ。かんがえながらも車椅子の取っ手をつかんで生徒を送っていく。

 その生徒の顔には、酷薄こくはくな笑みが刻まれていた。


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