表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/86

/2/

「実は、わが校の旧校舎にとり憑いた悪霊をはらっていただきたいとおもい、こうして参上した次第しだいで」


 ふきだした額の汗を、ものものしいデザインのハンカチできとりながら、日和たちのかよう月代高校校長三波田隼戸みなみだはやとはあたまを下げた。


「旧校舎…、ですか」

「はい。そこに、いわゆる地縛霊というモノがとり憑いていまして」


 日和は大沢木に向けて小声で言った。


「旧校舎っていや、あそこしかないよな?」


 月代つきしろ高校の裏手うらてにある古い木造建築のたてもの。旧月代高校の母体だ。戦前につくられたといわれているその旧校舎はもはや風雪にさらされてちかけており、何度か新校舎建設の話がもちあがったが、そのたびに幽霊さわぎがでて頓挫とんざしている。生徒にとっては、勇気をためすにはとっておきの場所である。


「いっちゃんは、入ったことある?」

「いや、ないな」


 大沢木は非科学的なものを信じていない。たとえ先日あえかから、自分が『狗神憑いぬがみつき』だと説明されても、合点がてんがいかない。だいいち、彼には記憶がないのだ。暴走族にやられてから、この道場で目をさますまでの記憶がすっぽりなくなっていた。

 彼がこの道場にかよっているのは、当然、たおすべき好敵手こうてきしゅがいるから以外にはない。


「あそこってさ、よく幽霊が出るとかいってて、クラスのヤツがキモだめししてるんだよ」

「ふーん」

「ふーん、って興味ないの?」


「やめてよ」


 割りこんできた声にふりかえると、みすずがあおい顔をして怒っている。


「幽霊なんて、いるわけないもん」

「なんだおまえ。幽霊こわいの?」


 有効な弱点を見つけたと知った日和は、チャンスとばかりに舌をつきだし白目をみせて、手をぶらりとさげた。


「幽霊だぞー」


 バチンッ、と平手がとんできた。


「うきょ!」


 あえかに負けずおとらず強烈だった。

 涙が出る。


「い、いてーじゃねえか! 本気でなぐるなよ!」

「あんたがわるいんでしょ!」

「ふざけただけじゃねーか!」


「春日君、うるさいですよ」


 あえかからたしなめられ、「なんでオレばっか」とグチって沈黙を守る。


「それでは、明日にでも」

「今日中に来ていただきたいのです」


 校長は身を乗りだすようにして、あえかの手をとった。汗まみれの恵比寿さまみたいな好色こうしょく顔が、あえかに近づく。


「あー! くそ! あのナミヘイ! オレのあえか様になんつーことを!」

 飛びだした日和は、七福神の顔をむりやり押しのけ、あいだに割りこんだ。


「な、なにをする!」

「師匠はオレのモンだ! 妻子もちはすっこんでろ!

「き、きさま! 教師に向かってなんという暴言を!」

「センコーがこわくて師匠のもとにかよえるかってんだ!!」


「春日君、落ち着きなさい」


 日和を押しのけ、間合いをキープしたあえかは、すこしほっとしながらも冷静に言った。


「わかりました。おいそぎのご様子でしたら、いまから出張させていただきます」

「たすかります」


 あたまを下げた校長は、日和に向けてするどい視線を放つ。

 負けずとにらみかえす日和。

 男同士のみにくい火花が散る。


「醜いわ」

「そうだな」


 みすずと大沢木がはじめてあった意見にうなずきあう。


「それではしかたがありません。今日の修練は中止にして――」


「師匠! それにはおよびません!」


 日和はビシッ、と親指を立て、カッコイイと思い込んでいるナナメ45度の顔向きでアピールした。


「オレに荷物もち、やらせてください!」

「なんと!」


 バチバチバチ、と校長と日和の視線が交錯こうさくする。たがいになにを思っているかは一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


「醜すぎる」

「そうだな」


「わかりました。ではみすずさんと大沢木君はこれで――」

「あたしたちもぜひ、お師匠様のお祓いぶりを見てみたいと思います!」


 天をつくようなきれいな挙手をしたみすずは、日和に皮肉な笑みを向けた。


「なにをぅ!? こしゃくな小娘!!」

「だってぇ、あたしたちもそろそろ実践を目にしたいと思うんですぅ。そうよね、大沢木くん?」

「どっちでもいいよ俺は」


 興味なさそうな相棒に、みすずは片腕をとって強制的にあげさせた。


「大沢木くんもやる気十分です!!」

「……そんなことやってたのしいのか? おまえ」


 冷静な大沢木の声を笑顔で無視して、あえかの答えを待った。


「わかりました。では、みなでゆくとしましょう」

「「ええっ!?」」


 日和と校長が愕然がくぜんと声をあげる。


「なにか?」


 その顔にほほえむあえか。


「やったー!」


 はしゃぐみすず。

 大沢木はつまらなそうに外を見て、あ、カラスだ。と思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ