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「狗神?」
「ええ。狐憑きだとか獣憑きという呪詛の一種です。大沢木君には、その才能があったようですね」
あえかは好きな緑茶をすすりながら、日和に向かって説明した。
「イヌガミ家の一族」
「……まぁ、代々狗神憑きの家はきらわれ、さげすまれる対象となっていました。主のねがいをかなえるために不貞をはたらく輩として、たたり神ともされていますね。こわされた社には昔、忠節でしられた犬の魂が奉られていたようです。彼の執拗な怨念に呼応し、とり憑いたのでしょう」
「いっちゃんは、たすかるんですか?」
日和の心配はそれだけだった。
道場まで帰ってきたが、ひとつも目を覚ます気配がない。このまま目を覚まさないんじゃないかと心配になった。
「たぶん、大丈夫だとおもいます」
あえかにしてはめずらしく、はっきりしない物言いだった。
「明日、金剛様と相談してみます。あなたは家にお帰りなさい」
そういうあえかに見送られ、日和はからすま神社をあとにした。




