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おそかった。
あえかは歯がみした。
「金剛様!!」
「応!」
普段はのらりくらりと二足歩行すらあやうい和尚も、このときばかりは袈裟のすそをまくりあげて駆けつける。大根のような足のしたには若者向けのバスケットシューズを履いていた。似合わないことこの上ない。
昨日の神無しの社に不審をもったあえかは、亀占を用いて祖霊の行き先を見いだし、それが日和の友人の大沢木にとり憑いている事を知った。
すぐにとり除かねば命にかかわわる。
彼のゆくえを探ろうとしたがなにかに邪魔されてなしえず、しかたなく日和を待っていたところ、別ルートで調べを進めていた金剛があらたな情報をもってきた。
どうやら敵のひとりが廃校となった中学校を根城にしているらしい。
そして、それが大沢木の捜している”銃を武器とする学生”であることはわかっている。
昨日の様子では、大沢木はまだ彼をねらっている可能性が高い。金剛と同行し、あえかは旧晴嵐中学へと向かった。
廃屋となり果てた校舎にたどり着き、聞こえてきたけものの声に耳を澄ます。
「先にゆくぞ”舞姫”!」
金剛は上を向くと、「憤ッ」と手にもつながい錫杖で地面をふみつけ、棒高跳びの要領で二階へと飛びこんだ。
あえかは廊下を走り、二階への階段を捜す。夜の校舎に冷たい靴音をひびかせ、暗闇をいくつもとおり抜けても目指すものは見あたらない。
「?」
あえかは足を止めた。ながい黒髪がふわりと前進し、華奢な肩をやさしくつつみこむ。
こころを静め、目を閉じて気配をさぐる。
物音ひとつしない。と、いうより、人の気配がない。漆黒の窓には闇が降り、耳に痛いほどの静寂があたりを包んでいる。
油断しました。と、あえかは独白した。
彼女は、式符の領域に囚われていた。




