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二霊二拍手!~昇天巫女様とゆかいな下僕-アコースティックVER.-~  作者: にゃん翁
第二話 狂犬騒乱(きょうけんそうらん)
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 夕暮れ。


 定員割れをくりかえし、廃校となり果てた中学校の教室。「2-C」と黄ばんだ表札のかかるホコリだらけの部屋のなかで、日和はナワでくくられて転がっていた。


「……こないねえ」


 少年は教壇に座り、足をぷらぷらと遊ばせながらつまらなそうにつぶやいた。


「見捨てられちゃった?」


 日和は少年をにらみつけた。


「どうしようかな。タイムリミットは日没までってのが、よくあるシチュエーションなんだけど」


 その片手には、本物の銃がぶら下がっている。


「ちゃんと手紙もだしてきたのにさ」

「見てねーんじゃねーの?」


 日和はつっかかるように言った。


「見てないかー。それだとお兄さん、ご愁傷様しゅうしょうさま

「なにがだよ」

「代わり」


 と言って、少年は日和に銃口を向ける。


「じょ、冗談だよな」

「うん、半分冗談」

「よかった。……って半分!?」

「だってつまらないんだもん。うさらししたいな」

「まぁ、待て。落ち着こう、な、ボク」


 日和は少年から離れようと、もぞもぞと足を使った。


「あはは! お兄サン、ヘタレー!」

「ヘタレでわるいか! オレはまだこんなところで死にとうない!」


 少年は銃口をおろした。


「わざわざたしじょうまで書いたんだ。ほら、見て見て」


 最前列の机のうえに置いてある書道道具一式から、文字の書かれた半紙をとりあげる。


 ”今夜七時。晴嵐中学にて待つ。”


 達筆たっぴつだ。とびもはねも完璧かんぺきだった。

 ミミズの軌跡きせきのような日和のノートとは次元が違った。


「これを、こうして……」


 と言って、少年はポケットからかたそうな石を取りだすと、『果たし状』でくるむ。


「こう、と」


 力一杯に、窓ガラスに投げつける。

 甲高い音が誰もいない学校にひびき、『果たし状』は夕焼けのグランドへと飛びだしていく。


「おまえ! まさか!」

「十枚くらい書いたからさ、アイツの家つきとめて投げこんでおいた。どこにいてもわかるように、全部の窓に向けてね」


 たのしそうに語る少年の目は、子供のようにんでいる。

 だが、違う。と思った。子供はここまで無邪気に他人に害をなすだろうか。


「いっちゃんの家はおふくろさんしかいねえんだぞ!? もし当たってケガでもしたらどうする気だ?」

「いったーい! って感じ? あはは」

「おまえ! ふざけんなよ!」


 日和が立ち上がろうとすると、少年は素早く銃口を向けた。


「うごかないでよ。まだ、生きていたいんだよね」


 どこかが欠けてやがる。日和は戦慄せんりつした。純粋な子供の酷薄こくはくさ。アリやバッタを踏みつぶすように、おなじ人間すらも自分と同類とは見なしていない。言葉がつうじる()()の踏みつぶす対象。自分以外を生きている対象とは認めていない傲慢ごうまんさが、そこにはあった。


「アイツのしわざだろ、ボクのオモチャをこわしたの」

「オモチャ?」

「そう、ボクがつれてきた珍走団のバカども。うらみがあるって言ってたから、利用してやったんだ。それが、あんなしかえしされたから、全員ビビって逃げだしちゃった。なさけないったらありゃしない。あれでボクより年が上って、マジバカじゃないの?」


 今朝の新聞記事。


「……あれ、いっちゃんの仕業だってのか?」

「『いっちゃん』だって! はは! かっこ悪!」


 少年の笑いにさすがに日和はむっとしたが、その目が笑っていないことに気づいて背中に冷たいものが走る。


「ともだちヅラした呼びかたやめなよ。クッサイな」

「おまえに指図されるいわれは――」


 ズドン、と足下に穴があく。


「無いでございますワ」


 日和は両足を出来るだけ高くかかげて言った。


「あはは! なにそのカッコ! サイコー!」

「ぐぬぬぬ……くそ」

「ともだちなんかいらないよ。チカラさえあればいい」


 少年は銃を目の前にかかげ、自分に言い聞かせるようにつぶやく。


「勉強だっていちばん。成績だっていちばん。ちかよってくるのはハイエナみたいなやつらばかりだ。ボクの威光にさずかろうと、下心ミエミエでちかづいてくる。そんなヤツらはともだちじゃない」


 あどけなかった少年の横顔が、急に老けこんだ老人のように影が濃くなる。


「自分よりよわいからっておどすヤツらも最低だ。そんなにカネがほしいなら、銀行でもおそえばいい。自分より弱いヤツからしかうばえないなんて、ヒキョウなやつらばかりだ」


 少年は銃口を日和のひたいにポイントし、引き金に手をかけた。


「お兄サンみたいなひとはきらいじゃないけど、アイツのともだちならしかたないよね。タイムリミットも終わっちゃったし、バイバイ」


「待ちな」


 こわれて外された教室の出入りぐちに影が差す。


「そいつをはなせ」

「いっちゃん!」


 暗くなってしまった部屋ではよく見えなかったが、まちがいなく大沢木の声だった。


「あーあ、来ちゃったんだ」


 来たばかりの待ち人に照準をあわせ、うれしそうに少年は言った。


「あぶなかったね。ギリギリセーフ。キミのともだちののうみそ、ぐちゃぐちゃになっちゃうところだったよ」

「やりたきゃやれよ」

「え?」


 日和が声を上げる。


「あ、そ。じゃ」


 少年は見ることもなく、外したばかりの場所へすばやくポイントし、引き金をひく。

 ねらいは正確だった。

 ズドン、と命中した先に、日和のすがたはない。


「あれ?」


 不思議そうな顔の横を、日和をかかえた大沢木がとおり過ぎる。


「おまえはもう帰れ」


 巻きついたロープを爪の先ではじくと、まるでスパゲティみたいにぱらぱらとほどけて床に落ちる。


「ここにいると、おまえまで巻きこむ」

「なに言ってんだ! いっちゃん逃げるぞ! 相手は銃もってるんだぜ?」

「関係ねえ」


 にたりと笑った友人の顔が、日和にはとても人間には見えなかった。


「にがしはしないよ。キミたちはボクが狩るんだ」

「違うな。狩るのはオレだ」


 声をかけようとした日和の前で、大沢木の身体がふくらんでいく。

 肩が盛りあがり、足が太くなり、顔がヒトの骨格とは別のモノに変形していく。

 毛が生え、四肢ししが床にはりつき、つきだしたアゴからは大量のよだれがびたびたと床をよごした。


 ガあああああああああああああ!!


 異形のおおかみえた。


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