表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二霊二拍手!~昇天巫女様とゆかいな下僕-アコースティックVER.-~  作者: にゃん翁
第二話 狂犬騒乱(きょうけんそうらん)
29/86

/10/

 今日も、大沢木は。学校を欠席していた。

 あえかに連れてこい言われたものの、当人が居ないのではどうしようもないのではないかと、日和は心の中でイイワケする。

 一体、どのツラ下げて会えばいいのだろう。

 自転車を降りて商店街のなかを歩きながら、なやめる少年は悶々としていた。


「――おわっ」


 段差につまずいて転ぶ。

 となりを歩いていた人にぶつかった。


「すんません」

「オウ待てコラ」


 あやまって立ち去ろうとすると、背中からイヤな声がかかる。


「人にぶつかっといてあやまりもなしかい。坊主」

「最近のコウコウセイは目上の人への礼儀っちゅーモンを知らんのォ」


 大きめのマスクとそれぞれ違った帽子をかぶった、一目で不良ととれる学生の方々が、サングラスの下から日和を見下していた。


「あ、あやまったすよ!」

「はぁ!? よく聞こえんのじゃボケ!」

「おまえの声は蚊の鳴くキンチョールか!」


 だっはっは、と仲間うちのみでウケる。


「先輩にぶつかったらあやまって財布の中身の全額渡す。これで晴れて見逃してくれんのや」

「もし可愛い妹かキレイな姉ちゃんがいたら紹介してくれてもいーぞ」


 だっはっはっは!


「か、カネっすか? いま持ち合わせないんすよ」


 横の自転車をチラと見る。こいつを使って逃げられないだろうか。


「金がない。じゃ、決まりだな」

「決まりだ」

「な、なにがっすか?」

「ホントかどうか、ぶんなぐってから調べてやるよ!」


 大男の不良が腕をふりかぶる。

「うわっ!」と日和は顔をかばった。


「ぐおっ!」


「……?」


 いまの悲鳴はオレじゃない。

 目を開けると、大男が地面に倒れていた。マスクと帽子とサングラスが外れて、青あざとハレモノだらけの顔がさらされた。


「チンケなマネしてんじゃねーよ」

「お、大沢木!!」


 不良たちがそろって恐怖の表情を浮かべる。


「……いっちゃん」


 大沢木は日和を一瞥いちべつすると、不良どもにするどい視線をびせた。


「やべぇ! 逃げるぞ!」

ヘッドを背負え!!」

「テメーコノ覚えてやがれ!」


 またたく間に去った彼らの背中を見送ると、大沢木はポケットに手をつっこんで立ち去りかける。


「いっちゃん!!」


 日和は声をかけた。


「ああ?」


 大沢木が冷たい目を寄越よこしてくる。


「会って欲しい人がいるんだ!!」


 日和は懸命に説得した。

 彼が生きてきたなかで、これ以上に真剣になった瞬間はないと言うほどに。


「知らねえよ」


 みじかく吐き捨て、去っていこうとする彼の腰にすがりつく。


「な、なにしやがる!!」

「ついてきてくれるまで、はなさね-!」

「このッ!」


 ボコッ、とボディーに衝撃が入る。

 腹の底から逆流ぎゃくりゅうしてきた昼飯を、日和はふんばってこらえた。


「……いってぇ」

「はなせ! 今度は本気で殴んぞ!」

「気の済むまで、やれよ」


 腹を決めた日和は、つかんだ腕に力をこめた。

 本気はどれくらい痛いのだろう。と思った。


「…………」


 日和にとっては、長い時間が経過した。


「いてーよ。ひーちゃん」


 組んだ腕を、ポンポン、と叩かれ、日和は自分がどれだけ固く胴を挟んでいたのか気づいた。

 腕をはなすと、表情をやわらかくした大沢木と目が合う。


「昨日は悪かったな。きついこと言っちまって」

「いや、オレだって、声かけられなかったからさ」


 たがいに照れたように笑いあうと、日和は手を差しだした。


「仲直り」

「よせよ。気色わりィ」


 日和が手を引っ込める気配がないことを知ると、大沢木はその手をにぎった。


「よっし!」


「泣かせるのう」


 その両手に、さらに無骨な手がくわわった。

 横をむくと、涙腺が切れたかのごとく涙で溢れさせた金剛が、赤ら顔でうんうんとうなずいている。


「青春じゃ。これぞ青春じゃ」

「こ、ここここのハゲジジイ。殺すぞ!」


 顔を真っ赤にした大沢木があせって手をひっこめると、臨戦態勢でハゲ頭をにらむ。


「金剛サン、なんでこんなとこいるんすか?」

「おまえの知り合いか!?」


 大沢木の声に、日和は「まぁ、一応」と言葉をにごす。


「まさか、会わせたいやつってのは」

「違うから」


 日和は早とちりを速攻で否定した。


「いまから師匠にしごかれにゆくのじゃろう?」


 金剛はすぐに涙をひっこめると、ふところから小さな紙切れを取りだし、日和に押しつけた。


「これをとどけい。ワシはもうすこし、調べものがあるでの」

「はぁ、別にいいっすけど」

「では、たのむぞ」


 そういうと、千鳥足でふらつきながら「南無…」とつぶやきチリンチリンと鈴のような音を響かせて去っていく。


 そして日和たちは気づいた。


 興味津々の観衆に取り囲まれている状況に顔を赤くし、ふたりは早歩きしてその場をあとにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ