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黄昏どきを過ぎた町を、闇が覆いはじめる。まばゆいほどのかがやきが地上から消え失せ、人間たちがかろうじてあらがって灯す粗末な光だけが、彼らの周りだけを照らしだす。
それでも闇はできる。
電柱の影。建物の裏。公園の木のうろ。光のない場所には闇が巣くう。誰にも知られずひっそりと、自分たちの領域はどこにでもあると。
「つぎは誰を殺そうかな?」
それはまだ、おさなさの残る少年の声。
「ねぇ、次は誰がイイと思う?」
暗闇につつまれた学校の教室。教壇に腰掛けた少年が、ふたつの足をぷらぷらとふりながら誰かに話しかけている。
「むやみに殺すのは良くないと、教えたはずですが」
闇の奥から声がとどいてくる。それは、優しげな男性の声だった。
「対象は、できるだけ点在させること。そして、証拠を残さないこと。それらの戒律にキミは違反している」
「ひとりだけだよ」
少年はぷぅとほほをふくらませてむくれた。
「しかも、わざわざ逃がしたフシがある」
「わかってないなぁ。レベル100の勇者が敵を狩るだけのゲームじゃ、すぐ飽きちゃうんだ」
少年は、体格にあわない重そうな銃身を抱えあげ、お気に入りのオモチャをいじりまわす。
「あなたにそれを渡したのは、遊びのためではありません」
暗闇の影はたしなめるように声をかけた。
「その銃は古いものですが、特殊な呪法を施し、対象の魂を刈りとる強力な”勇者の剣”です。本来なら、あなたのような幼子がもてるシロモノではないのですよ」
「ボクもう子供じゃないよ」
少年は一方向に向けて喋りかける。まるで、そちらに誰かがいるように。
だがその方向にはのっぺりとした闇があるだけだ。
「”人を殺す”ってのがオトナへの儀式なら、もう完了だよね」
無邪気に語る少年の顔は、月明かりに照らされて天使のように愛らしい。
「だから組織にいれてよ」
「弱りましたね」
「もう十人くらいは狩ったんだ。ボクもそちら側にいきたいな」
「それが残念なことに、あなたは1つミスを冒している。ノーミスクリアでなければ次のステージへのカギは手に入らないのです」
「そうなの?」
「ええ」
「わかった! つぎのターゲット」
教壇から飛び降りると、ながい銃身を影に向ける。
「にがした奴。狩ることにするよ」
「大正解。良くできました」
影は手を叩いた。
「期待していますよ。あなたに神の、御加護があらんことを」




