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「ではこれより、祓いの儀を執りおこないます」
巫女衣装に着替え直したあえかは、榊に雷を模した白紙をいくつもぶら下げたお祓い棒を手にしながら言った。冷たい水に浸ってほんのりと色づいた桃色の肌は、湯上がりとは違った神聖な色気を日和に与えてくれる。
「一生ついて行くっす師匠ぉ」
「ではあなたは、部屋のまえで見張り役をしていなさい」
言われたとおりに縁側から部屋へとはいる障子を閉め切り、腕を組んで仁王立ちで見張りに立つ。
「これでいいっすか師匠!」
「ええ。なにが起ころうと、そこにいてくださいね」
「命に代えても!」
あえかは視線を残った笹岡と、いまだ起きる気配のない少女に向けると、
「わたしはこれより、祓いの儀のために離れます。この部屋は簡易の結界を張っていますので、外から侵入されることはないでしょう」
「はぁ、いったい何をするのですか?」
あえかは微笑えんだ。
「悪霊退治です」
納得のいっていない表情で、笹岡は生返事を返す。
「笹岡さんは、この部屋からでないでくださいね」
そう言い残すと、自分も日和とは別の方向から出て行ってしまう。
美倉みすずのマネージャーは、ふうと息をつくと自分も壁により掛かった。一晩中探しまわったせいか、すぐに眠気に襲われる。
――チッチッチッチッ。
壁に備えつけられた年代物の古時計が、一秒ずつ時を刻む。
――一〇分経過。
なにも起きなかった。
日和は退屈なあまり、おおきな欠伸をする。
――二〇分経過。
立っているのに疲れた日和は、あぐらをかいて外の景色をながめた。
――三〇分経過。
代わり映えのしない景色と、心地よい風にほほをなでられ、無我の境地がみえてくる。
――三三分経過。
彼は寝ていた。
――チッチッチッチッ。
時計が時を刻む。
黒い秒針は的確に時間を刻み、ながい針が一周しようとするころ、おかしな事が起る。
平日の昼間。
障子を挟み、外から部屋のなかへ光が差しこむ。
光は部屋のなかへ障子の格子の影と、外で寝入る春日の影、そして、壁に寄りかかった笹岡の影をつくり出していた。
そのひとつが、蠢きだした。
うねうねと畳の上を這い回り、宿主からはなれると、そろそろと慎重に、布団へと近付いた。
目的の場所へとたどり着いた影は、二次元であるはずのその様相を変え、こんもり盛りあがるとフルフルとふるえて上へと伸び、そこに手と足が生えた。
ニョキリとあたままで生やすと、口に当たるべき部分が二つに裂けて、卑しい笑みを浮かべる。
「え……」
ながい眠りから姫が目覚める。
美倉みすずは、目の前にそびえるものを見て、まず何よりも恐怖を覚えた。叫び声をあげようとして口を開くが、声が出てこない。
影の腕が伸びてくる。
あれに掴まれたら終わりだと、本能が告げていた。
目に入った場所に、自分のマネージャーが目を閉じているのを見つけると、なんとか声を絞り出そうとする。
「あ……あ……あ」
声が出てこない。
誰か。
誰か。
助けて。
天井ががたりとかたむき、何者かが影と少女の前に降ってくる。
凛とした表情。
白と朱の巫女服。
「正体を現しましたね」
轟あえかは美しい顔を微笑みで彩り、声をかけた。




