表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二霊二拍手!~昇天巫女様とゆかいな下僕-アコースティックVER.-~  作者: にゃん翁
第一話 少女霊椅譚(しょうじょれいいたん)
15/86

/14/

「みすず!!」


 声をあげ、靴を脱ぐのももどかしく、縁側をのりこえるとやすらかな寝息を立てている少女のもとへと青年はけ寄った。

 みすずって、委員長とおなじ名前なんだなぁ、とぼんやり思いながら、横にいる師匠にたずねる。


「いいんすか?」

「すこし、様子を見ましょう」


 昨日の晩から少女を保護していることを告げると、青年は礼を言ってあえかに頭を下げた。


「ありがとうございます。見ず知らずの町で、こんな親切で美人なかたに助けてもらえるなんて」


 美人なのは当然だが、他人に言われるとすこしムカつくなぁ、と日和は考えた。


「ぼくは、この子のマネージャーで、笹岡徹ささおかとおるといいます」

「マネージャーって、この子、芸能人なんすか?」


 日和の問いに、マネージャーは照れくさそうに笑って答えた。


「まだ売りだし中だけどね。キミくらいの年だと、ちょっと有名かもね」

「そういやぁ、つい最近見た顔のような気はするなぁ」


 スヤスヤ眠る顔をじぃっと見てみる。ふっくらしたくちびる――点々とあるそばかす――くるくるウェーブのかかった巻き毛――童顔だ――頭のなかに、唐突とうとつに友人の顔が浮かぶ。


「あーーーーーーーーーーーーっ!!」


 突如とつじょ絶叫ぜっきょうをほとばしらせた日和に、あえかと笹岡がなにごとかを顔を向ける。


「美倉みすず! ”みっちー”じゃん!!」

「あ、やっぱり気づいてなかったか」


 青年は困ったような、どこか誇らしいようなほほえみを浮かべて、自分のプロデュースする少女をみる。


「なぜだ! なぜ気づかなかったんだオレ! 志村に自慢できたのに!!」

「いや、あまり言わないでくれるかな」


 今度こそ迷惑そうに顔をゆがめ、笹岡がつよく止める。


「彼女は今、勉学とタレント業を両立しているんだ。下手に騒ぎたてると金のタマゴがマスコミの連中につぶされてしまう。それだけはけたい」

「そうか。オレは”みっちー”を背負ったのか」


 フフン、とひとり物思いにふける日和に、笹岡はあえかに困ったような目を向ける。


「あとできつく言っておきますからご心配なさらず。それより、昨日何が起ったか、お聞かせ願えますか? すこしはお手伝いができるかと思います」


 いつも姿勢の正しいあえかは、まっすぐな目で笹岡をみてそう告げた。

 ほほを赤らめ、笹岡が視線をそらす。

 その挙動きょどうを日和は見逃さなかった。


「てめー! オレの師匠に色目つか――うきゃっ!」

「黙りなさい」


 立ち上がりざまに腕をとられ、足払いをかけられた日和は、後頭部を強打させて叫び声をあげつつ床をごろごろと転がる。


「あの」

「この少女には、式神が取りいていました。こちらではらいましたが、またおなじようなことが起るでしょう。もとを絶たなければなりません」

「式神?」

「わるい霊とお考えください」

「霊、ですか」


 不審ふしんなものでも見るように、笹岡はあえかをみる。


「今までも、おなじようなことはありませんでしたか?」


 その視線を受けても動じず、あえかは比較的優しげに声をかけた。


「今までも、ですか」


 考えこんだ笹岡は、はっとしたようにあえかを見た。


「思い当たることがあるのですね」

「ですが、みすずは気にするなと」

「でしょうね。霊障れいしょうを認めていない方にそういった話をすると、奇異きいな目を向けられますから。偏見へんけんはいつの世でもなくなりません」


 あえかは静かに告げると、笹岡が口をひらくのを待った。


「……最初は、冗談だとおもっていたんです。車のバックミラーにおかしなものが見えるとか、ずっと誰かに見られている感じがするとか。先ほども言ったように、みすずは勉学とタレント業を両立させようとしているため、スケジュールはとてもハードなものです。その疲れからだと思っていました」


 訥々(とつとつ)と語りはじめる。


「最近になって、『誰かが自分を追ってくる夢をみる』と言ってきたんです。たかが夢じゃないか、と笑って気にしなかったのですが、昨日撮影のためにむかえに来ると、突然「影が追ってくる!」と言って逃げだしました。それからはもう、撮影所には頭を下げるは、町中探してまわるはで、見つからなければ、興信所にまで頼もうかと」

「夢見が現実になった、と」


 愚痴ぐち混じりになりかけた笹岡の言葉をさえぎり、あえかは考えこむように目をとじた。


「ゆめみ? ああ、そうですね。夢が現実になったというのでしょうか」

「春日君」


 あえかは立ち上がると、床でうめいている日和に声をかけた。


「用意なさい」

「うきぃぃぃ……な、なにをっすか?」

はらい儀の準備をおこないます」


「祓いの儀!?」


 飛び上がった春日は、痛みすら忘れてあえかの前にひざまずく。


みそぎの準備はおまかせください」

「ええ。おねがいします」


 そういうと、あえかは心持ち真剣な面持おももちで、二階の自分の部屋へのぼっていった。


「あの、ぼくはどうすれば……」

「ご安心めされ。お客人」


 日和は笹岡に向けて「一歩もそこから動いてはなりませんぞ」とくぎを刺し、自分は二階の階段をのぼっていった。

 すさまじい叫び声があがり、階段を転げ落ちるような派手な音が聞こえ、それがおさまると静かな田舎町の風の音だけがさわさわと聞こえてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ