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「あった! 良かった!」
果たして、昨日置き捨てた場所に日和の自転車は無事転がっていた。近くにゴミの回収場があるが、誰もそちらに移動はしなかったらしい。
ついでに修理屋まで持って行き、修理をたのむ。明日には直ると言われ、自転車はそこに預けて「さぁどうするか」と悩む。
「いまさら学校戻るのもめんどくせえな」
かといって、いつもよりはるかに早い時間にあえかの道場へ行っても、
「学校はどうしたのですか?」とやんわり尋ねられでもしたら窮地だ。
サボりました。
などと口にすれば叱られるのは目に見えていた。
「……ゲーセンでひまつぶしするか」
「キミ」
肩を叩かれ、ふりむくと、昨日見かけた顔が白い歯をみせて笑っている。
少女を追いかけていた青年だった。
「また遭ったね」
「あ、こんちわ。なにか用すか?」
「いやね、あれから、彼女が一つも見つからないんだ。また情報がないかい?」
青年は気さくに尋ねてくる。
「ああ、それなら――」
(!)
そういえば、あえかが気になることを言っていた気がする。
「ちょっと質問していいすか?」
「なにかな?」
「あんた、人間か?」
苦笑し、青年は朗らかに答える。
「ああ、もちろん。足が透けてみえるかい?」
幽霊だからと言って身体が透けているとは限らないことを、経験上日和は知っている。
「あっ、あれ」
と言って、青年の背後を指さす。
「え?」
不思議そうな顔で振り向いたその肩を押しだす。
おどろいた顔をしてたたらを踏むのを見て、日和は「人間だ」と納得する。
「なにをするんだ」
「いやー、オレ霊感高くって、本物と偽物の区別もつかないんっす。だから、確認」
「確認? ふざけないでくれないか?」
先ほどまでとは打って変わって、目をつり上げて怒りだした青年に、日和は手を振って落ち着かせようとする。
「あれ? ひょっとして、外の人っすか?」
”外の人”っというのは、この町の外部に住む人間のことを指す。より厳密に言うと、この町の事情を知らない人間が、いわゆる”外の人”という枠に当てはまる。この町の住人なら、突然こんなことをさせてもワケを話せば理解してくれる。
もっとも、このような確認方法をとらざるを得ないのは、春日の霊感体質ゆえだが。
「昨日からかけずりっぱなしで、いい加減俺もキレかけてるんだ。ちょっと来い」
ちからいっぱい服をつかまれた日和は、あわてて弁解する。
「い、いや違うんす! あのお嬢さんの居場所なら知ってるっすよ!」
「本当かい!?」
ぱっ、と手を放し、
「ウソはついていないだろうね?」
「当然っすこの春日日和生まれてこのかた一度もウソなぞついたことないっす」
あきらかなウソを弁明の言い訳に使いながら、日和は青年の機嫌を良くすることにつとめる。
「案内するんでついてきてください」
へこへこと平身低頭しつつ、日和はたぶん大丈夫だろうとタカをくくって歩きだした。




