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二霊二拍手!~昇天巫女様とゆかいな下僕-アコースティックVER.-~  作者: にゃん翁
第一話 少女霊椅譚(しょうじょれいいたん)
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 無い知恵をしぼったあげくにたどり着いた結論は、師匠のいるからすま神社へ戻ることだった。

 師匠は邪気退散じゃきたいさんの達人だ。この程度のヤツ、ものの数じゃない。

 問題は、たどり着けるかどうかだった。


「しっかりしろ!」


 少女の足は限界のようだった。

 いくら気力でなんとかしようとも、肉体には限界がある。

 疲労で口もきけない状態で、あの急な坂をのぼることなど不可能だろう。


(どうすりゃいいんだ)


 影はまだ彼らを追ってくる。足音がしないのがさらに不気味だった。

 ゆみおか公園を突っ切る。弓が丘公園は、町内でもおおきな公園だ。カップルが人目をしのんでイチャイチャとベンチで絡んでいる。日和はうらやましいことこの上ない目で何度もとおり過ぎたコトがあり、助けを呼ぶには絶好ぜっこうの場所だと踏んだ。


 だがどうしたことか。今日にかぎって誰もいない。走ってきたなかで、すれ違った人もいない。


 雨なんか降っていないのにっ!


 日和はくやしまぎれに心で叫ぶ。


 このまま死んだらこの公園に来たカップル全員呪ってやる!!


 その望みが現実となる前に、救世主があらわれた。


「――師匠ォォォ!!」


 片手にトートバッグをげたとどろきあえかが、白いブラウスにワンポイントのカーディガン、ジーンズというスマートないでたちで公園の出口をとおり過ぎようとしていた。


「あら。春日君」


 鈴のような声をあげ、


「駄目ですよ。こんな時間に女の子と二人きりで」

「ちがうっす!!」


 いきおいよくその足下へ頭から突っこみ、荒い息をついてようやく立ち止まる。


「恥を知りなさい」


 説教しようとするあえかに、


「助けてください!!」


 日和は一気にすがりついた。

 ぶんっ、とその身体が回転し、背中をしたたかに打ちつける。


「げふっ」

「なにがあったのですか?」


 ぱんぱんっ、と手をはたき、あえかは地面に這いつくばった弟子に向けて尋ねた。


「お、追っかけ、られ、て」

「よく聞こえません。はっきり言いなさい」

「こ、この子」


 息もえ絶えに、ふるえる指で地面に座りこんだ少女をしめし、


「あ、あれ」


 後方を指し示す。

 あえかの顔が引きまる。


「わかりました。下がっていなさい」


 カジュアルを着こなしたあえかは、それだけのジェスチャーで事態を把握はあくすると、二人をかばうように前にでる。


「何者かは知りませんが、この二人には手を出させません」


 追いかけてきていた影は、りんとしたあえかの声を聞いたせいか、ぴたりと動きを止めた。


「……結界をっていますね」


 あえかは買いものバッグのなかから一枚の紙きれを取りだし、指ではさみこむと、「不ッ」とまっすぐふり下ろす。


「我乞ひ願ふ。高天原に居坐す神に呼び掛けむ。八尋白智鳥の御身土蜘蛛の糸に囚わるる我に十拳の剣の威を知ろしめし給へ」


 術式じゅつしき祝詞のりととなえながら手を横に、縦に、斜めにふり下ろす。

 影がぐにゃりと曲がり、一陣の風が舞ったかとおもうと、白い紙のたばが風に吹かれて散っていった。


「な、なんすか、これ」

「式神の一種でしょう」


 あえかの答えに、日和はさらにワケがわからず「式神ってなんすか?」とたずねる。


平安朝へいあんちょう陰陽師おんみょうしが使ったというかりそめの命を吹きこむ秘技です。でもどうして……」


 あえかは日和の連れていた少女を見た。

 少女は影が消えたおかげで緊張の糸が切れたのか、全身から力をぬくと日和のほうへ倒れてくる。


「ぬおっ!」


 汗ばんだ肌に服がはりつき、こぶりな胸がわずかに見える。


「春日君、その女性は?」

「い、いえ! 怪しいものじゃないっす!」

「……今、一番怪しいのはあなたでしょう」


 うろんな目つきで見下してくるあえかに、日和は適当な質問をぶつけて話題をそらそうとした。


「師匠はなんでこんな時間に?」

「ちょっと買いものに」


 あえかはキュートな小熊のアップリケがあしらわれたトートバッグから、ふくろに入った豆腐を見せてくれた。


「明日のみそ汁に入れる具が切れていたものですから」

「さっすが師匠、家庭的っすね」

「自分で料理するのはたのしいものです。カップめんばかり食べるのはいけませんよ」

「師匠は料理できる男は好きっすか?」

「ええ。……それがなにか?」


 師匠は料理ができる男が好き、と。

 あらたな情報が日和の頭のなかにインプットされた。


「知り合いですか?」


 師匠はまた話題をもどすと、春日は「いえ」とまじめに答える。


「追われていたのをたまたま助けたんです。なんか、必死そうだったんで」

「そう」


 気をうしなっている少女にいくばくかの哀れみの目をむけ、


「春日君。その子を背負せおってわたしの家へ」


 また鼻の下がのびていた日和は、途端に現実に引き戻された。


「ま、まさか冗談ですよね?」


 今度は自転車以上に重いものを背負って、またあの坂を上らなければならないという悲惨な連想を否定したいようで、必死に愛想笑いを浮かべて言葉を待つ。


「早くしなさい」


 スタスタと帰路きろについた師匠を見てあきらめた。


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