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やじ馬村人、のち村長演説

その頃村では門番が口を滑らした結果、狼男が魔物を見つけたということは知れ渡り村のそこここでは奥様方が井戸端会議を始めていた。


「なんでも狼男さんが村の伐採予定地で魔物を見つけたらしいわよ」

「聞いた聞いた、あの狼男さんがあわてて村の中を走り去っていくから何事かと思ってたけど、魔物ねえ」

「へえ、それで門番が口を滑らして私たちの話のタネになっているのね」

「うちの村の門番には守秘義務とかないのかしら?」

「わざわざ隠す必要があるかも分からないけど…まあ本当にもれると危ないことならちゃんと隠すでしょう」

「そうですよねえ、あの村長じゃないんですから」

「むしろあの村長があの怪しい道具で呼び出したのかも…」

「まさか…まさか…ねえ?」


ここで誰も否定できないのが村人が村長をどう見ているかの分かり易い指標である。

毎度のことだがここまでいくとあんな村長ですら哀れに感じるから不思議なものだ。


「そういえばその魔物ってどんな魔物なのかしら」

「さあ?私はそこまでは知らないです」

「私も知りませんよ、というより門番も知らなかったみたいですし狼男さんが伝えなかっただけでは?」

「でも気になりますわ、狼男さんみたいに人型なのかしら?」

「世の中には人型以外の魔物もたくさんいると村長がうだうだと語っていましたから…」



噂をされると木でもくしゃみがでるのだろうか、枝をぶるっと震わせた踊る木。

それを怪訝な表情で眺める狼男、そしていまだに台車の上に乗り続ける村長。もう狼男は村長を降ろすことを諦めてしまったようだ。


「どうした?何かあったか?」

(否定、肯定)

「すまないがよくわからない、違うけど違わないってなんだ」


正否の二択で答えられない場合は今の方法では伝えられない、意思疎通手段の改良は急務である。


「あれじゃろ、何もなかったのに自分の体が意図しない反応をしたんじゃろ。しゃっくりとかと同じじゃ」


まさしくな答えだったのか踊る木はズビシッ!と効果音がつきそうな勢いで村長を枝指す。

狼男も合点がいったのか「木もそういうことってあるんだなあ…」とつぶやくと同時に、なぜ村長は分かるんだと理不尽ないらだちを感じていた。


村長からしてみれば踊る木は分かりやすい方で、正否を確かめるだけでも一苦労な魔物だろうとなんだろうととりあえず相手をしてきた経験は伊達ではないのだ。

そもそも人間同士でさえ言葉は共通ではない、たとえ一方通行でもこちらの言っていることを理解してくれるだけ遥かにマシだとすら村長は思っていた。


「ほっほ、最近の若いもんはなっとらんのお。異種族とのコミュニケーションなど必須技能であろに」

「あんただけだよっ!」

(肯定)


異種族一人と一本に見事に否定され二対一、これが多数決なら負けである。

こんな馬鹿をやりとりをしながら小一時間も歩き続ければ村に到着する。



伐採予定地に通じる林道と面した北門、いつもは木こりと一部猟師ぐらいしか通らないさびしい場所だが今日に限っては人だかりが出来ていた。

当然お目当ては噂の魔物である。


ざわざわがやがや

ざわざわがやがや


まだ昼過ぎで昼休憩の時間も終わろうかというのに多くの人が集まっている光景はどうなのだろうか。

仕事にいかなくていいのかとかわざわざ小さな子供を担いでまで見に来るほどの価値があるのかとか突っ込むべきことはいくらでもある。

だが何よりも門番がさらっと職務放棄してそこに混ざっていることが一番の問題だ。


「プランク村名物、怪物店長お手製の狼男まんじゅうはいりませんかー」

「一ついただきます」

「はい、お買い上げおりがとうございます!」

「新しい魔物で新しい名物、これは売れるっ!」


狼男の知らぬ間に狼男まんじゅうなるご当地菓子が作られ、また新たな魔物である踊る木も同じ目に遭うのだろう。

肖像権なんてないご時世、それに村長が彼らを招き入れた理由の一つでもあるため文句も言えやしない。


昼休みの時間も完全に終わったころ、急に門近くのやじ馬たちが騒ぎ出す。

彼らが帰ってきたのだ。


「お、おおぉぉ…おぉ?木、あれは木か?」

「木だ、木が根っこで歩いてやがる、それも妙に足さばきが綺麗だぞ」

「なんだありゃあ、狼男の次は動く木か?」


奇妙な木への疑問がどんどんと広がっていく。

直接見れていないものも伝わってきた情報で歩く木という狼男以上に珍妙な化け物の姿形を知っていく。


「木、木、木…木の化け物の名産品…どうすれば…」

「枝を一本ぐらい折って持って帰れたら…生爪をはがすようなものなのか?」


金の亡者どものつぶやきが聞こえていたのか歩みを止めこそしないものの枝を震わせる踊る木。

聴力も優れている狼男、当然丸聞こえである。だがこの村の洗礼のようなものだと自分に言い聞かせて色々とこらえる。


狼男、もとい狼男に引っ張られていた台車が門を通り過ぎた直後、突如として今までぐーたらとしていた村長が飛び起きた。


「注目、ちゅうもーく。仕事サボってまでこんなところでやじ馬やっとるということはこれからわしの言わんとすることも分かるじゃろお。狼男の横でうねっておるのがぬしらの噂する魔物じゃ」


やる気のない掛け声から始まった即興村長演説は意外とまともであった。


「まあわざわざここまで連れてきたこの木、狼男の言うところの踊る木だが今日よりプランク村の一員じゃ。おそらく器用さを求められる仕事に適正があるじゃろう、適当にあてがってやってくれい」

「村長、その木は本当に信用できるのですか!?」

「珍しく真面目な質問じゃなあヒューズ。だが信用できる出来ないなど問題ではない。わしらが信用せざるをえんのだ」


そこで一度言葉を切ると、こう言った。


「ぬしら、何か勘違いしておらぬかのお…狼男も踊る木もわしらでは到底敵わぬ化け物なのじゃ」


そう、当たり前のように村に溶け込んでいる狼男ですらその気になれば熟練の猟師たちに反撃の隙さえ与えず殺しつくせるだけの能力を持っているのだ。

銃弾の軌道を読みつつ避けたり矢を叩き落としたり、そんなふざけたことすら可能な正真正銘の化け物でに人間が勝つ術など玉砕覚悟の消耗戦ぐらいなものだ。

ではそんな存在への最も有効な対抗手段は何か、それは―


「なればこそ歓待し自らの陣営に引きづり込めばいいのじゃ。敵対すれば負けるなら仲間に引き入れればいいじゃないかと有名な軍師も言っておる、間違いないわい」

「し、しかし…」

「女々しいのお…そもそもそれ以外に方法はなかろうよ。それにヒューズ、ぬしにとって狼男は十分信頼に足る友人ではないのかのお?友人の友人は多くの場合友人じゃとりあえず信用してみることじゃ」


事実として狼男を嫌う村人は少ない。

極めて真面目に村人をやっており「人間だったら婿に欲しいぐらいだ」「惜しい、惜しいぞ。彼は人間だったなら間違いなく美男だ」といった評価を受ける程度には信頼を勝ち得ているのだ。


「む、むぅ…奴がそう言うのなら…それに村長の言う通り村にいる男衆じゃあ(店長除く)対抗できないだろうのも事実だしな」

「うむうむ、それでよい、それでよいのじゃよ。その判断は懸命じゃ」


その日某国北部に位置する村の戸籍にまた人外が増えた、そして名物も増えたそうだ。

村長が真面目にシリアルすると文章量が増える、不思議!

あと酔っぱらった狼男は弱いよ!そういうことにしとこう

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