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魔物学者と吸血鬼、南部線ぶらり旅7

ぴーんぽーんぱーんぽーん


もはや何も言うまい。

慣れから諦めへ変わった人質たちの雰囲気はなかなか近寄りがたいものだった。


『えー、皆様おはようございます。朝の体操のおかげで心身ともにそれなりに快適だと思われます』

『えー、朝ご飯のお時間です。本日の朝食の内容はパンを主食に―』

『えー、黒服が運んできた台車からご自由にお取りください。飲み物の方もしばらくすれば運び終えますので少々お待ちください』

『えー、では皆様今日も生き残れるように祈りながらいただきましょう。願わくば今日も平和でありますように…』


「やっぱり今日もパンが主食ですか…僕はそろそろ米が食べたくなってきましたよ」

「米と言うと東方大陸の方で栽培されている穀物か。中央大陸でそれを好むとはなかなか珍しい人だな君も」

「いえいえ、前に東方大陸に魔物調査に言ったときに振る舞っていただいた食事が美味しくてですねえ…ぜひ吸血鬼ちゃんにも食べさせてあげたいものですよ」

「ふむ、米とな?それはどんな食べ物なのだ?」

「こんな大きさの穀物を…えーとどうやるんでしたっけねえ」


指で米粒の大きさを示しつつも細かいこと分かっていないことを伝える男。

男の中途半端な知識に気落ちしつつもまだ見ぬ食べ物に期待を膨らませ、それと同時にまだ見ぬ食べ物に会いに行くためにためにもこの状況を打破して見せると決意を新たにする吸血鬼。


しばらくすると駅内にざわめきが起こる。

そう将校たちがせっせと仕込んだものに気がついたのだ。


「ん?これなんでしょうね。パンの包み紙にごちゃごちゃと書かれているんですが。それに周りのざわめきから察するに…」

「突入開始時刻?ということは国軍はやるつもりなのか」


パンの包み紙に書き込まれた「突入開始時刻1400」という文字。

それが意味するのは駅を取り囲む国軍が14時きっかりに救出作戦を開始するということだ。

だが三人には朗報であると同時に凶報でもあった。


「驚きですねえ…このタイミングで救出作戦とは。というよりおかげさまでタイムリミットが切られてしまいましたよ」

「わざわざこんな方法を使ってまで内部に伝えるということは利用しろということなんだろう。だがこのタイミングはまずい」

「どうした二人ともなにがまずいのだ」


吸血鬼は分かっていないが今の二人にとってはタイムリミットが縮められるのは厳しい問題なのだ。

そもそも二人は黒服たちの行動パターンを分析し隙をついて親玉を叩くつもりだったのだ。

それが国軍の救出作戦もとい突撃によって台無しになることがほぼ確実となってしまった。


「せめて、せめてもっと早く伝えてくればやりようもあるんですが…もう半日もないんじゃろくに準備もできませんよ」

「だが弱音を吐いている余裕もない。外の都合とはいえ決まってしまったものは利用するしかない」

「そうは言ってもどうするんですか。放送室を押さえないことには結局皆殺しになっちゃうんですから」


二人の信じている黒服洗脳説ではとにかく放送室を押さえることが最重要目的なのだ。

二度目になるが放送室へ行くための安全なルートを確保するため黒服たちの行動パターンを見極めなくてはいけない、そのためにはとにかく時間が必要だったのだ。

そして時間がないなら半ばやけくそぎみの特攻ぐらいしか策がないのだ。


「ならもう色々と諦めて玉砕覚悟の特攻しか…」

「正直それが現状では一番確率が高い…なんともおかしな話だがな」


重い溜息を吐く二人と二人のどうしようもないという嫌な雰囲気にイライラしている吸血鬼。

若干アホの子疑惑のある吸血鬼にとってこの状況はストレス以外の何物でもなかった。


「ああ!ならばいっそ私一人で殴り込みをかける!だから血を寄こせ!」

「いやいやいやいや、だからそれじゃあ結局ばれて皆殺しになっちゃうんだって!だから落ち着いて!」


ついに暴れだした吸血鬼をなんとか取り押さえる男。

はたから見ると子供の癇癪をどうにかしようとする父親、もしくは幼女を襲う変態であった。


「はあ…これはもう無理かもしらんな」


そんな一人と一吸血鬼を横目にさらっと諦めを口にする紳士。

決して本当に諦めたわけではない。だが彼の精神力を削って余りある状況だったのも事実だ。

紳士は諦めの悪い、いや生き汚いと言っても差し支えのない程度には生に執着の強い人間であった。

横の二人が尋常ではなく自分が死んでしまうような状況でも生き残れるということも分かっていた。

だからこそ予定通りに進まなければ真っ先に死ぬのは自分だと、だからこそ二人を利用して状況を打破しようと、普通の人間だからこそ必至であがいてきたのだ。

だが状況は悪化し解決の糸口も見えぬまま、二人もいまいち頼りにならず下手をすれば暴走しかねない。


「もうなるようにしかならんな。だがそれでも私は…諦められんのだよ」


普通の人間である紳士こと、アルゴン・ヒューストン。彼はそれでも諦めない。



国軍兵士たちは刻一刻と迫る突入開始時刻に向けて最終調整を行っていた。

だが将校は今になって作戦に不安を抱き始めていた。というのも今更ながら強化兵のことを思い出したのだ。

さらに都合の悪いことに強化兵が見つけられず連絡もつかなくなっていたのだ。


「中尉、気づいているか?強化兵たちがどこにも見当たらない」

「ええ、私もつい先ほど気がつきました。たしかに強化兵たちが見当たりません。嫌な予感しかしないのですが、それでも作戦を決行しますか?」

「ここまで準備を進めておいて引くわけにもいかんだろう…それに人質の動きも問題だ。今から修正したところでどうにもならんだろう」

「そうですね。今更どうしようもありません。ですが本当に強化兵たちはどこへ行ったのでしょう」

「知らん、分からん。とにかく邪魔だけはしないでくれるように祈ることしか俺たちに出来ることはない

な」


そう、もう止まることはできないのだ。ここからは時の運も強く絡んでくる。

情報を訂正すれば否応なしに人質からの信頼は失われるし、準備も一からやり直しだ。それにこのままでは強化兵たちだけでも勝手に動き出すであろうことは分かり切っている。

それならば少しでも準備を完璧にして自分たちのやるべきことをやるしかない。人質と強化兵、この二つの不確定要素は将校の言った通り祈るしかないのだから。



それぞれが精神力を削られながらも諦めずにあがき続けていたころ、強化兵たちはある場所でひっそりと時が来るのを待っていた。

彼らは兵士と兵器の融合、人造の魔物などと言われる存在。彼ら自身以外この場の誰もが想像もつかないような能力を持っている。

そしてそれは彼らの手札がこの場の誰よりも多く、最も勝利に近いということだった。

だからこそ彼らはひたすらに待っていた、必勝の状況が転がり込んでくるのを待っていたのだ。

あと二三話でプランク村に戻れる!

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