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魔物学者と吸血鬼、南部線ぶらり旅3

三人の置かれた状況を簡潔に表現するならば、詰んでいる。

正しく表現するなら三人以外の人質のが助けられないことが確定しているので動きようがない。


実は男と吸血鬼だけならばこの状況を脱出できる可能性がある。

男はあんなのでも魔物学者と言う正真正銘の化け物と相対し死と隣り合わせな仕事で一人で長年こなしており、人の枠を超えた強者だ。

吸血鬼は当然人外、姿形は幼女だが歩兵部隊相手ならどれだけ練度が高かろうが赤子の手をひねるように潰せてしまう能力を持ち、本来の能力が発揮できるならば戦車部隊相手に無双することすら可能だ。


だがしかし二人とも目の前にいる人質を見捨ててまで自分だけ助かるという選択肢を選べるような性格はしていないし、なにより人質を見捨てることによって黒服たちの目的が達成されるのが癪にさわるのだ。

結果として身動きがとれなくなり詰んでいると言うべき状況に陥ってしまったのだ。


いやこの状況を人質の安全を確保しつつ打破するのは国軍でも無理だろう。


「しかし、このままでは人質たちはあと四日の命だ。どうにかならんのか」

「無理でしょうね…政府が、いえ魔導学院の後ろにいる魑魅魍魎どもがこの程度のことで利権を放棄するとは考えられませんよ。僕がそっち側だったとしたら万に届かない程度の命と引き換えにするには惜しいと思ってしまうものがありますしね」

「魔導学院はこの国の技術志向の象徴でもある。それがテロに屈するとはたしかに思えないな」

「この駅だけでも相当な数の命が失われるというのだぞ!それが…」

「でも魔導学院が力を失えばもっと多くの人が死ぬ、そんな予想を大真面目に立てている偉い人たちが一杯いるんですよ。そして偉い人たちがそう考えるならそれがこの国にとっての正義なんです。僕も納得はしたくもありません。でもそれが理解しなくてはいけない現実なんですよ」


アルキメデス諸国連合はこの世界で最初の産業革命が起こった国、そして建国以来常に世界最高の技術を生み出してきた超大国なのだ。

現実世界のアメリカ以上に極端な「最新こそ最高」というある種の宗教じみた思想で突き進んできた国の原動力、それこそが魔導学院である。

消しゴムから広域殲滅兵器まで、なんでも魔導学院にあるとまで言われ、逆に魔導学院にないものはこの世界にはないと思えとも言われる。


「早い話が魔導学院がらみのごたごたに巻き込まれた時点で諦めるべきということだろう?」

「その通りでしょうね。諦めるのが吉ですよ」


この状況を作った馬鹿みたいな組織に、そしてこの状況を打破できずに諦めが支配する空気に、、吸血鬼はただひたすらに怒っていた。

だが吸血鬼は馬鹿ではない。二人に切れても暴れてもどうしようもないということは痛いほどに分かっていた。


「諦めるしかないというのか…」

「…いえ、方法がまったくないわけでもないかもしれませんよ」

「なんだと?」


つい先ほどまで詰んだ諦めたと言っていた男が急に意見を変えた。

即座にそれに食いつく吸血鬼。


「なんだ、どうすればいい!」

「奇跡的に筋書き通りに行ったとしても人質の無事が保障できるわけではありませんよ?」

「もれなく全滅よりはどうせマシだ、さっさと話せ」

「僕はあいつらの動きにちょっとした違和感を感じていまして、というのも黒服たちは僕の見る限りじゃ一度も喋っていないんですよ」

「一度も喋っていない、それは本当なのか?」

「言われてみれば喋らないどころか撃ち殺された男の質問に対する反応が異様に鈍かったな…いや最初の放送で「質問を受け付けない」と言っていたから無視しただけか?」

「そう、そうなんですよ。黒服たちは喋らないようにしている、質問を無視している。僕も最初はそうだと思っていたんですよ。でもね、気がつきません?」

「何が言いたい、早く言え!」

「まさしく吸血鬼ちゃんの叫びが答えですよ。僕たちは小さくない声でこれだけ物騒なことを喋り続けていました。なのに注意の一つもされないのはおかしいと思いませんか?」


そうこの三人はずっとこんな調子で話をしていたのだ、それも声を潜めていたわけでもない。

黒服たちからすれば自分たちの計画を潰そうと画策している話、それも隠そうともしていない。

なのに反応しなかった、これはおかしい。


「だけども例の男性を打ち殺すときは異常なまでに反応が良かった。では問題です、この特定の刺激だけに機敏に反応する様子って何かに似てないですか?」

「…まさか催眠状態か?」

「正解です。ようするに黒服たちの反応は機械的すぎるのですよ。吸血鬼ちゃんは黒服たちの物を見る目をしているとも言っていました。もしかすると黒服たちは…」

「何かしらの方法で操られている可能性があると言いたいのか」

「ええ、その通りです。おそらく単純な命令に従う程度のものでしょう。これだけの人数を操るというのは正直考えづらい。ですが僕はこの状況ではこれが一番現実的かつ希望のある解釈だと思います」


これで自分の言いたいことは言い切ったと男は胸をなでおろす。

男の主張にはたしかに大きな矛盾は見当たらなかったが仮定の積み重ねでしかない。

しかし男の言う通り現状唯一の希望のある解釈であった。


「ならば、仮にそれが真実ならばどうすればいい。どうすれば解決する」

「そうですね、どういう原理なのかは分かりませんが最長四日この状態を維持したいと考えるなら…近場に管理者がいるんじゃないでしょうか。そして駅内の情報が集めやすく黒服たちへ指示を出すのにも便利な場所と言えば一つしかないでしょう」

「放送室か!」

「その通りです吸血鬼ちゃん!爆発の後の説明もスピーカーからでしたし放送室に親玉がいるのは間違いないでしょう」

「そうと決まれば突撃…」

「まあ待つんだお嬢ちゃん。今まで騒いでも誰かさんに気づかれなかったのはカメラを目にしているからだろう。下手に動けばここまで頑張って考えたのが水の泡だ」

「では、ではどうすればいいのだ?」

「吸血鬼ちゃん、幸いなことに最終期限までまだ丸三日あるんですから焦る必要はありませんよ。焦らずゆっくり確実に、非常識な奴らに制裁を食らわしてやりましょう」

「う、うむ!」


三人は具体的な作戦を考え始めあーでもないこーでもないと言い合っている。

そんな中、この事件最初の夜が迫ってきていた。

ドラゴン>>超えられない壁>>強化兵>吸血鬼(万全)>戦車部隊>魔物学者≒踊る木>狼男≒吸血鬼(現在)>歩兵部隊>ヒューズ≒熟練猟師>狼男(酔い)

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