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 どうしよう……


 胸が痛い……


 心臓が張り裂けそうだ。



「結婚してたんだ。……知らなかった」



 ぼそりと呟くと、優斗は僕に振り返った。



「颯太……」


「さっきの言葉は忘れてください。ごめんなさい。じゃあね……」



 早くその場を立ち去りたくて、精いっぱい明るく笑いながら後ずさる。



「待ってくれ」



 僕の腕を掴んだ優斗の手を振りほどき、首を横に振った。


 これ以上優斗と話したくない。


 失恋決定。


 サヨナラだ。


 もつれそうになる足を必死に動かして、その場を走り去った。



 結婚していたなんて!


 結婚していたなんて!!



 どうして言ってくれないんだよ!


 バカ!


 優斗のバカ!


 2回も振られるなんて僕も大バカおマヌケ野郎だ!



 畑から道に出て、がむしゃらに走った。


 走って走って、走って走って……



「うわ……っ」



 石につまづいて盛大にコケてしまった。


 そして運悪くそこは下り坂で、体勢がうまく取れずにそのまま滑り落ちる。



 ざざざざっ!と、砂埃と砂利のぶつかる音が耳元でうるさくて、舗装されていない砂利の坂を勢いよくゴロゴロと転がった。


 砂埃で目が開けられず、頭を庇いながら思った。


 もうこのままずっと転がり続けて谷底に落ちて、一生優斗とは会わずに過ごせたらいいのに。



 でも、そんなのは無理な話で……


 下まで転がり落ちてようやく止まり、全身が痛くて暫く動けなかった。


 両足がジンジンと熱く、麻痺したように痺れている。


 かなり擦り剥いてるかも……


 振られてコケて、ほんっと、情けないったらありゃしない。


 そう思ったら泣けてきた。


 悲しくて、ショックで、次から次に涙が大量に出て声を上げて泣いた。


 本当は怒っているふりをして優斗の事を好きだった。


 やっと自分に認めさせることが出来たのに……その瞬間に見事に散った。


 ううん。


 ぐしゃりと踏みつぶされてしまった。



 心が……、気持がナイフでえぐられて痛くてたまらない。



 まずは家に戻らなくちゃ……。と、立ちあがろうとしたとき、右膝に激痛が走った。


 立ち上がれなくて四つん這いになったけど、擦り剥いた膝が痛くて尻餅をついて一息ついた。


 膝には泥と砂がこびりついていている。


 血が滲んでいるみたいだけど、痛くて傷口には触れず、膝を庇いながら何とか立ちあがった。



 シャワー浴びてスッキリしたい。



 それだけを考えて歩き始めた。


 歩くたびに膝は痛むけど、自分を励ましながら一歩一歩ゆっくりと歩く。


 走ってきた道はどうやら別荘へ向かう道ではないみたいだ。



 迷ってしまった……



 辺りを見渡すと、山の上に大きなアンテナの鉄塔が立っていた。


 あのアンテナの下は確か公園だったはず。


 ブランコがあるだけの小さな公園だけど、優斗とよくキャッチボールをして遊んだ大好きな公園。


 別荘からもその鉄塔が見えているから、まずあの公園に行けば別荘の方角がわかるはずだと思った。



 山の周囲を見るけど、別荘の姿も何も見えず、とりあえず今僕がすることはあの公園に行く事だと決めて道を歩き始める。



 別荘なんて来なきゃよかった。


 母さんをあの時追いかければよかった。


 というか、そもそも、別荘に行こうって母さんが言った時点で拒めば良かったんだ。


 塾の夏期講習を申し込めば良かったんだ。


 そうすれば優斗に会う事もなかったし、二回も告白して玉砕する事もなかったし、コケて迷ってこんな道を歩かなくてもよかったんだ。


 自分に悪態をつきながら一歩一歩歩く。


 そしてようやく公園にたどりついた時は太陽が沈み、外灯が点きはじめていた。


 別荘の方向を確認して今度は山を下る。


 優斗とは自転車で競争しながら15分かかって公園に着いていたから……あとどのくらいで帰りつける?



 走りたいけどそれは無理で、歩く振動が傷に響くから狭い歩幅で進んでいくしかない。


 暗くなった山道は怖くて、普通なら絶対に一人では通れない。


 でも、暗い道より、ぽっかりと空いた心の方が痛くて、どうにでもなれって思っているから、全く怖くなかった。


 今何時なんだろう?


 帰ったらきっと疲れきって爆睡しちゃうかも。


 きらきらと輝きだした星を見ながら、トボトボと歩く。


 すると、背後から車のライトが近づいてきて思わず木の陰に隠れた。


 乗っていたのは、優斗の隣のビニールハウスにいたおじさんだった。


 ものすごいスピードで走り去って行く。


 田舎で対向車も全くないからあんなスピード出せるんだなぁって考え、また歩き始める。



 優斗は今頃どうしているかな?


 奥さんと一緒にご飯食べてるのかな?


 追いかけてきて欲しいって思ったけど、そんなの優斗に伝わる筈ないし、追いかけてなんて来ない。


 なんだか全部が虚しい。


 たまに猛スピードで通るトラックから隠れながら、満天の星を眺めながら歩いた。


 とにかく歩いた。



 そしてようやく別荘が見える位置まで来たときに気付いた。




 トラックの荷台に置かれたバッグの中に玄関の鍵か入っている事を!




 ああ……


 なんという間抜けでバカでアホなのだろう。



 こんな辛い思いして帰りついても家の中には入れないなんて……!



 でも、お風呂に入りたい。


 きっと今の格好は顔は涙でぐちゃぐちゃで、服は泥だらけで髪はボサボサ……


 仕方ないからどこかの窓ガラス割るしかないのかな。



 一息つき、敷地の中に入ろうとしたら、玄関の前にトラックが止まっていた。



 優斗のトラックだった。

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