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8

 畑に着くとバーベキューは始まっていた。


 優斗と一緒に働いている人やその家族でわんやわんやとしている。



「お待たせしましたー!」



 優斗は荷物を持って皆に声をかけて、僕の名前を呼んだ。



「あらぁ、東京の子はこっちと違って綺麗で白いねぇ」



 誰かの奥さんらしき人がカラカラ笑って僕の頭をぐりぐりと撫でた。



 その隣には真っ黒に日焼けした男の子がいた。


 見事な坊主頭だ。


 ニカっと笑った口は前歯が無かった。


 その顔が妙に可愛くて、そのくりくり坊主頭をぐりぐりと撫でる。



「ひゃあぁ! さ~わ~ら~れ~た~~!」



 その子は飛び上がりながら逃げて行く。


 なんなんだ?



「朝、畑来ただろ? その時お前見て『可愛い姉ちゃん』って言ったらしいぞ」



 優斗が僕の隣に来て、坊主頭の子を見ながら笑った。



「お姉ちゃんって……」


「お前が兄ちゃんって知って落ち込んだそうだ」


「……」



 女の格好をしているわけでもないのにどうして女に間違えるんだ?


 あのくりくり頭は目が悪いのか?



「お、ほら、出来たらしいぞ。食うぞ!」



 優斗が俺の手を握って、歩く。


 また握られた。


 でも、それも最後なんだと思うとずっと繋いでいたかった。



 バーベキューで使われている野菜は全てこの畑で採れたものらしい。


 一口食べて、



「美味しい!」



 思わず大きな声で言うと、周りのおじさん達が喜び、



「東京じゃこんな新鮮なの食えないよぉ」


「ほんとほんと。この野菜、10分前に採ったばかりよぉ」


「どんどん食え、ちったぁデカくならないとなぁ。女の子持ち上げられないよ~」



 ガハハハと豪快に笑う。



「ほら、ジュース」



 隣に来た優斗が紙コップに入ったジュースをくれた。



「ありがと。……皆、いい人達だね」


「だろ?」


「うん」



 視線を感じて振り向くと、さっきのくりくり頭が立っていた。隣には小さな男の子がいた。


 これまたくりくりだ。



「ジュース飲む?」



 訊ねると、ふたりは振り子のようにうんうんと頷くので、紙コップにジュースをついであげる。



「おいしい?」



 僕の問いにまた、うんうんと頷き、肉を食べ始めた。



「可愛いなぁ」



 呟くと、



「お前の方がもっと可愛かったぞ」



 優斗が隣に来て、僕の皿の肉を食べた。



「……僕の事はいいよ」


「ほんっと可愛かったなぁ。俺の弟にしたかったもんなぁ」



 弟……?


 あ、なんだかそんな言葉で落ち込む自分がいる。


 弟だから恋愛対象にはならないって言われている気がした。



 でも、決めたんだから告白しなきゃ。


 傷ついても……


 泣いても……



 綺麗に散って、この恋と、ここの思い出を封印するんだ。



「弟……だから……、ダメ……だったの?」


「え?」



 ちょっとモゴモゴと言ってしまったので、優斗はちゃんと聞きとれなかったみたいだ。



「弟のような存在だったから……僕は振られたの? 僕の気持ちは……優斗兄ちゃんに届かなかったの?」


「……颯太? それ……」



 優斗は驚いて僕を見つめた。


 僕は込み上げてくるものに耐えて優斗を見つめた。



「僕は……優斗兄ちゃんじゃなくて……恋人として……僕……は……っ」



 くりくり兄弟は僕が泣きだしたから驚いて、口をぽかんと開けて見ている。



 何も言うなよ?


 これは一世一代の大勝負なんだから。



「颯太……」



 優斗の手が、僕の手に重なった時、



「優斗! 酒ないぞぉ!」



 誰かが優斗に声をかけた。



「はい! ……颯太。俺も、お前に話したい事がある。大事な話だ。だから、俺のビニールハウスに行っててくれないか?」



 優斗の手が僕の頬を撫でた。



 僕は頷き、皆が宴会している方向と反対に歩いてビニールハウスに向かった。



 優斗の話ってなんだろう?


 っていうか、僕、告白しちゃったんだよね?



 緊張して上手く言えなかったけど、でも、優斗は分かってくれたよね?



 だから、それに対する返事をくれるんだよね?



 ああ、



 ダメだ。


 今にも心臓が飛び出して死んじゃいそうなくらい緊張してる。



 僕はドキドキドキドキと大きな音で鳴っている胸を押さえながらビニールハウスに入ろうとしたが、上の道に車が止まって、助手席から誰かが下りてきた。



「あら、颯太君も来てたのね。おじさんばっかりの飲み会つまらないんじゃない?」



 降りて来たのは緒方さんだった。


 こんな時に登場しなくても……って、……忘れてた。


 この人と付き合っているか優斗に聞かないといけなかったんだ。



 大切な話って……もしかして緒方さんの事?


 やっぱり僕は振られるのかな?



「いえ、つまらなくはないです。皆いい人だし……」


「優斗の近くにいたいものね」



 何だかその言い方にカチンと来た。



「そんなんじゃないです」


「じゃあ、どうして? 貴方のみたいな都会の子供が、こんな畑でのバーベキューなんて楽しい筈ないじゃない?」


「……」



 これは喧嘩を売られているのだろうか?


 酔ってるのかな?


 少しお酒の臭いがする。


 なんだか、すごく嫌だ。



「そんな露骨に嫌な顔しないでよ。昔からそうだったわよね? 私が彼といると睨んでなかった? 貴方が優斗を好きだって知ってるのよ。私」


「……」



 やっぱり喧嘩を売られている。


 これは買うべき?



 なんだか、告白しちゃったら度胸が出たみたいだ。


 今ならこの人と口喧嘩でも取っ組み合いの喧嘩でも何でもできる気分だ。



「私ね、優斗に会い帰ってきたの。彼とはきちんと話さなくちゃいけないことがあって……」


「何を話してる! どうしてここにいるんだ!」



 いつの間にか優斗がこちらに来ていて、彼女の腕を掴んで僕から遠ざけた。



「痛いわよ。離してよ。暴力で訴えるわよ」



 彼女は怒って優斗の手を振りほどいた。



「挨拶に来たのがいけなかったかしら? 旦那様に」



 え?


 旦那様?



「黙れ!」



 優斗が怒ってる。


 今、緒方さん、優斗の事を旦那様って言ったよね?



 結婚してるの?



「お前とはもう夫婦でも何でもない」


「離婚届はまだ提出してないから夫婦よ」



 喧嘩を始めた二人の声で、車の運転席から誰かが降りてきた。


 男の人だった。


 その人は優斗と知り合いみたいで、緒方さんと優斗の間に割って入って仲裁を始めた。



 でも、そんな事はどうでもいいんだ。


 僕はただ、深くショックを受けていた。


 この3年間、すごく悩んでいたのに、優斗はこの人と結婚してたんだ……

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