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 車で往復1時間の大型スーパーに着くと、優斗は缶ビールとかお刺身とか物色している。


 僕がお酒が飲める年になった時には、優斗とはどうなっているんだろう?


 お酒の席で、あんな思い出もあったなって誰かと笑っているんだろうか?


 ほろ苦い思い出だったって……



「こら、なに、ぼおっとしてる?」



 優斗はコツンと僕の頭を叩いた。



「痛いよ……」


「まだ選んでないのか?」



 あ、そうだった。


 お菓子買うんだった。



 適当にチョコとかポテトチップスとか選んで、カートの中に入れる。



「ジュースは?」


「オレンジジュース」


「ぷっ」



 優斗が笑った!



「何で笑うんだよ! どうせ炭酸飲めないガキだよっ。じゃあ、いらないよ。飲まないからいい」


「悪かったよ。ごめんごめん。オレンジジュースって言う颯太が可愛いって思ったから」


「かっ……か……可愛いって言うなっ」



 ばかやろう!


 そんな事言うな!



「はいはい。ごめんなさいねぇ。ほら、ジュースはオレンジ以外はなに飲む?」


「別にいらない」


「グレープか? と、アップルな?」


「……」



 僕はオレンジ、グレープ、アップルのジュース以外は飲まないのだ。


 小さい時からそうなので、優斗は勿論知っているわけで……


 だったら聞かなきゃいいじゃん!



 ジュースのコーナーに行くと、優斗は迷わず僕の好きな銘柄のジュースを3本カゴに入れた。



「こんなもんか。今、畑ではバーベキューの用意しているから着いたらすぐ食えるぞ」



 優斗は楽しそうに笑って、僕の手を握ってレジに行く。


 迷子にならない様に握ってくれてるんだろうけど、人が多い中で手を繋ぐって言うのはすごく恥ずかしい。


 でも、……嬉しい。


 ドキドキしながらレジに並んでいる時、後ろの女の子が、



「お兄ちゃん達大きいのに、お手手繋いでるよ?」



 疑問形で言っている声が聞こえ、思わず優斗の手を離そうとした。


 だけど、優斗はそれを許さないと言うように強く握った。



 どうして……離してくれないの?


 変に誤解されるよ?



 でも、僕も本当は手を離したくなくて、そのまま素直に握っていた。


 親に『言うな』と言われた女の子は、それでも不思議そうにじいいいっと僕と優斗の手を見ている。



 そんな見るなよ。


 恥ずかしいじゃん。



 順番が来て、優斗はやっと僕の手を離して買物カゴ2つをレジの台に置いた。


 計算が終わった一つ目のカゴを移動させて袋に詰めるが、いまいち入れ方が分からない。


 優斗が支払いを終えてもう一つのカゴを持って僕の隣に立った。


 もたもたしている僕が持っている袋の中を手際よく整理してくれ、3つの袋の中で一番軽いのを僕に持たせた。



「行くぞ」



 軽々と2つの袋を持って地下駐車場に向かった。



 僕より力が強い。


 当たり前だけど、やっぱり僕はまだ子供なんだと思い知らされる。


 迷子にならない様に手を繋がれるし、買い物袋にすら上手く入れられないし。



「どうした? 買い忘れかなんかあったか?」



 トボトボと歩く僕の頭上から声が聞こえた。



「え? ないよ……」



 すっごい至近距離に優斗が立っていて、驚いた僕は後ろに下がろうとしたが、かかとをつまずかせてしまい、体がぐらりと後ろに倒れた。



「……あ!」


「颯太!」



 優斗にグイッと腕を引かれ、尻餅をつくことは無かったけど、引かれた反動で優斗の胸の中にぼふっと顔をぶつけた。



「ごめ……」



 離れようとしたけど、それは優斗に阻まれ、力強く抱きしめられる。


 ばくばくばくと心臓が暴れ始めた。



「颯太……」



 耳元で聞こえる声に、ゾクリと肌が粟立った。



「もう……、帰らないでくれないか?」


「え?」


「ずっとこっちにいて欲しい」


「……」



 えっとぉ……


 これは……どういう展開?


 ずっとこっちにいて欲しいって……どうしてそんな事言うの?



「あの……」


「好きな奴がいるのは分かるけど……でも……、いや、だから、帰したくないんだ」



 好きな奴?


 ああ、別荘で言った事……気にしてるんだ。って……! どうして気にするんだよ!


 帰したくないって、どうしてそんな事言うんだよ!


 『好きな人に会うって言ったのは嘘で、本当は優斗が大好きなんです!』って言えたらどんなに楽か。


 でも、優斗は僕の事を弟みたいに思っているんだ。


 弟のように可愛いって思ってくれてると思う。


 だから、久々に会えて嬉しくて、また離れるのが寂しいから『帰るな』って言ってるんだ。




 僕は、優斗がもしかして僕の事を好きなんじゃないか? って思う気持ちを封印した。


 そんな事あるわけないし、そんな都合よく物事は進まない。


 緒方さんもいるんだし。


 二人はまだ……付き合っているのかな?



「ごめん、忘れてくれ。そんな事言われても……無理だよな」



 優斗の声が耳元で聞こえ、体が離れる。


 すうっと、体温が風に奪われ、もの悲しい涼しさを感じた。


 運転席に座った優斗はエンジンをかける。


 僕も助手席に座り、ドアを閉めた。


 あまり会話もないまま、畑へと向かう。


 誰がいるんだろう?


 さっき、ビニールハウスで会った人と、他に何人農園で働いているのかな?



「颯太は……大学、どこに行こうと思ってるんだ?」


「え? 第一希望は……海外留学なんだ」


「海外!?」



 優斗は突然ブレーキを踏んで急停車した。



「ひゃあっ」



 ギュギュギュって凄い音がして体が前にガクンと揺れる。


 超田舎の農道だから他に車は走ってないけど、急停止なんてしたら危ないじゃないか!



「危ないでしょ! なに……」



 怒って優斗を見ると、優斗は怒ったような真剣な顔で僕を見ていた。



「何? そんなに怒った顔で……」



 ぎゅうううううっと胸が締め付けられる。



「本気で言っているのか?」


「え?」


「本気で海外に行こうって思ってるのか?」


「色々……大学の資料も取り寄せてるし……」


「そいつも行くのか?」


「……え?」


「お前が好きな奴も一緒に行くのか?」



 いや、だから、好きな人って言うのは……って、言いそうになるけど、それをグッと喉の奥で止めて、



「一緒……だったら、……何?」



 優斗に訊ねた。



「……くそっ」



 優斗はハンドルをガンっと一発殴ってまた車を動かした。


 走りながらタバコに火を点ける。


 物凄く怒っているオーラを感じる。


 どうして怒るの?


 でも、これはもう……、確定じゃないだろうか?


 優斗は、僕の事が好きなんじゃないだろうか?


 だから『帰るな』といったり、手を握ったり、駐車場で抱しめたり……



 ああ、


 胸が痛い。


 嘘ついてるのが苦しい。


 僕も好きだって言っていいかな?


 もう一度、告白してもいいかな?


 喉から心臓が飛び出そうなくらい息苦しくてバクバクしてる。



 でも、緒方さんは……?


 あの人と付き合っているんじゃないの?


 だから、あの人と僕が話したのを気にして別荘に来たんだよね?


 緒方さんが今でも付き合っていると僕に言ったら困るとか……って、……どうして困るの?


 また僕が傷つくって思ったのかな?


 そうなると、優斗が僕を好きだなんてあり得ない話じゃないか。



 そして、今、僕はとても重要なことに気付いた。


 僕達は男同士だということを!



 男である優斗を好きって……僕はホモなのか!


 でも、優斗以外の男の人になんて別にときめかないよ?


 かといって女の人が気になるって言う事もないし……



 うううううん……分からない。



 自分がなんなのか。


 ただ、分かったことがある。


 優斗は、普通の男の人なんだということ。


 彼女もいるし、僕みたいなホモとは違う。


 僕の恋は永遠に実らない。



 心の底がぽっかり空いた寂しさ。



 やっぱり、明日、朝一で帰ろう。


 だからその前に……優斗に告白しよう。


 好きだったって笑って言うんだ。


 そしてこの土地とも優斗ともおじいちゃんとも皆にサヨナラしよう。



 自分の属性が分かって、何だかすっきりしたような、目の前の靄が消えたようなクリア感。



 『俺を好きだと言った男の子がいた』って、いつか思いだしてくれるだけでいいんだ。



 一世一代の告白して、この恋心をすっぱりすっきり散らせてあげよう。


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