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朝ごはんを食べたら、優斗が見せたいものがあると言いだした。
「見せたいもの?」
「見せたい……っつうか、知って欲しいっていうか……」
知って欲しい?
僕に何を知って欲しいんだろう?
不可解だ。
僕とはあまり一緒にいたくないくせにどうしてそんな……知って欲しいなんて……なんか、特別みたいな……
ううん。
特別とか、そんな事考えちゃ駄目だ。
ただ、母さんに頼まれたからって僕の世話をしようと思っているんだ。
僕は受験勉強しなきゃいけないし……
「別に知らなくてもいいよ」
「またそうやって突っぱねる。このツンデレ」
なんだと!?
ツンデレって……ツンは分かるけどデレっとなんてしていないんだからな!
反論しようと息を吸ったら突然両頬をぐにっと抓まれた!
「そうやってすぐムキになる性格じゃなかっただろ? 何があったんだ?」
優斗が顔をぐいっと近づけてきた!
そんな近くに来ないでよ!
僕は優斗の手を頬から離して、
「何があったって、別に関係ないじゃん」
プイと横を向いた僕を見て、優斗はわざと大きな溜息をついた。
「そんな可愛い顔で怒られても迫力ないよなぁ」
「え?」
可愛いって言ったか?
男の僕に!
可愛いって!
今度こそ反論しようとしたら今度は体をひょいと担がれた!
「ちょっと何! 放して!」
足をばたつかせて優斗の肩から下りようと試みるが、それは無理な話で……
優斗は僕の靴を持って、外に停めてあった軽トラの助手席のドアを開けた。
「大人しくしてろよ?」
僕を助手席に座らせると、急いで運転席に座った。
驚いた。
僕を軽々と抱え上げるなんて……
一応僕も男だから、そんな軽々と抱えられるほど小柄じゃないし。
そんな事を考えていたら、車が動き出した。
「……どこに行くの?」
「俺の職場」
職場?
そんなとこに僕を連れて行って何するんだよ?
挨拶?
どうして挨拶?
挨拶して何言うの?
「職場っつっても、ただの畑だけどな」
「畑?」
「今、野菜作ってるんだ」
野菜?
どういう事?
だって、ずっと……お医者さんになりたいって……
僕をちらっと見た優斗は、バツが悪そうにすこし笑った。
「医者は……大学中退した時、すっぱりと諦めたんだ」
中退?!
「中退って……どうして! だって、お医者さんになるのが夢だったのに!」
「夢は夢だよ。俺に医者は向いていなかったと思うんだ」
何言ってんの?
ずっと目標にしていた夢をそんな簡単にあきらめられるの?
ふいに、優斗の事が心配になった。
何かあったのだろうか?
僕が知らない何かが……
「色々あってさ……、なんか、人と会うのが嫌になったんだ。そんなとき農業に誘われて……食うならうまいもの食わなきゃなって思った」
優斗は煙草に火を点けた。
煙草なんて……吸ってなかったのに……
「お前、採れたての野菜食った事あるか? めちゃくちゃ美味いんだぞ? しかも自分で作るから尚更だ」
そっか。
だから日に焼けてるんだ。
力仕事もするから、こんなムキムキになって……
「嫌いだったトマトもさ、自分で苗植えて、育てて……、こんな美味かったんだって驚いた」
「……」
トマトは今更好きになんてならないよ。
幾ら優斗が好きになっても……僕はならない。
「颯太は、どうしてトマト嫌いになったんだ?」
その質問する?
原因は優斗だって言ったら驚くかな?
言わないけど。
「……何でだろ? 何となく」
返答をはぐらかしたら、
「こら、またツンデレ」
優斗が僕のほっぺたを指先で押した。
「別に……そんなツンデレとかしてないし」
優斗をちらっと見たら視線が合って、驚いて窓側に顔をそむけたが、
「してるじゃん」
「デレなんてしてない!」
「ああ、そういやそうだな。ツンだけだな。つーんと顔そむけてるしな」
優斗が楽しそうに笑う。
何がおかしいんだよ。
ちょっと赤い顔を見られたくないんだよ。
「久しぶりに颯太の声が聞けて……すっげぇ嬉しい」
え?
「ほら着いた。降りろ」
優斗はトラックのエンジンを止め畦道を歩いて行く。
僕は急いで靴を履いて、優斗の後を追った。
今……嬉しいって言った?
僕の声が聞けて嬉しいって言った?
ううん。
嘘だ。
本当は会いたくなかったんでしょ?
振った相手と会うっていうのは……気まずいと思う。
振られた僕が気まずく感じるんだから……
前方を見ると、優斗が僕を待ってくれていた。
急いで駆け寄ると、右手を僕の前に差し出した。
「ほら、手」
「え?」
手をどうするか分からなくて優斗を見て首を傾げる。
「手だよ」
優斗がちょっと荒々しく僕の手を掴んで、畦道から畑の中に入った。
「この位飛べるだろ?」
高さは1メートルもないくらいで、僕は優斗に頷いてぴょんと畑に飛び降りた。
「こっち」
優斗は僕の手を握ったまま歩き始めた。
どうしよう。
心臓が……ドキドキ音を立ててる。
優斗に聞こえなきゃいいけど……




