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 どうして?


 どうしているの?


 緒方さん……、いや、奥さんと一緒じゃないの?



 思わず物陰に隠れようと大きく足を踏み出した時、つまづいて転んでしまった!


 転んだ場所はアスファルトで、見事に膝をまた擦り剥いてしまった!



「い……ったぁ……っ」



 皮膚がビリっと破れた様な痛みで、温かい何かが足を伝って落ちて行く。



 血……とうとう出ちゃった。



 僕の声は、しいいいんと静まり返る中で響いたみたいで、



「颯太? 颯太か?」



 優斗がこっちに走ってくるのが分かった。



 来るな!


 来ないで!


 顔を見たくないのに!


 逃げようと、左足で地面を蹴り、走ろうとするが、そんな事出来るわけもなく。


 前のめりにまたこけてしまった。


 優斗が僕の腕を掴み、



「来ないで!」



 僕は立ちあがれないまま四つん這いで逃げようとしたが、肩をグイッと掴まれた。



「お前、どうしてこんなに汚れ……、血が出てるぞ! どうした?」



 無理矢理体を反転させられ、血が出ている膝を見て優斗が驚いて首にかけていたタオルを膝に巻いた。



「触らないで!」



 痛い足をばたつかせて逃げようと試みる。



「こら、暴れるな!」



 逃げようとする僕の腕をグイッと引っ張った優斗は、僕を抱きしめた。


 優斗の腕から離れようと暴れるが、そんな動きは封じられ、もっと強く、ぎゅううっと抱きしめられた。



「嫌い! 優斗なんて嫌い! 勝手に結婚して! 勝手に……っ!勝手にこんなっ! こんな!」



 もう何がなんだかわからなくて、膝が痛くて、怒りが出てきて、涙が溢れて優斗の胸を思いっきり叩く。



「嫌いなんだから! 大っ嫌いなんだから!」



 優斗は何度も『ごめん』と言いながら僕を強く抱きしめて。


 僕は手がつけられない子供みたいに泣き叫んでいたんだと思う。


 膝が痛いのも、コケたのも優斗のせいだって泣き喚いた。


 その度に、優斗も泣きそうな声で謝った。



 泣いて泣いて……


 そして視界が真っ暗になって……




 気がついた時には、トラックの助手席に寝せられていた。




「颯太?」



 優斗はトラックを止めて、僕の頬を撫でた。



「もう少し我慢してくれ。今、病院に向かってるからな」


「……」



 僕は何も言わずに優斗から視線をそらして満天の星空を眺めた。



 優斗はもう一度僕の頬と髪を撫でて運転を再開した。



 たまに、優斗がこっちをチラリと見る気配が分かったが、気付かないふりをした。


 見てしまったら、きっと泣いちゃうから。



 重苦しい雰囲気の中、病院に着くと、連絡してあったのか、看護師さんが車いすを持って来てくれた。


 優斗に抱きかかえられて車いすに乗せられ、診療室へ向かった。


 擦り剥いただけだと思っていたけど、結構酷かったみたいだ。


 まずは汚れている足を綺麗に洗ってもらった。


 右ひざの方が酷い傷だったので、麻酔を打たれて、傷口を集中的に洗われて何針も縫われてしまった。



 転んだ時の状況を聞かれ、念の為に脳波とレントゲンを撮られて診察が終わった。



 優斗が受付で会計を済ませて薬を受け取ってくれた。


 時計を見るともう夜11時を過ぎていて、見送ってくれた先生と看護師さんに頭を下げた。



 抱きかかえようとする優斗を突っぱねて自力で歩いた。


 優斗は僕の後ろを歩いている。


 何を話して言いか分からないけど、まずは病院に連れて来てくれたのはお礼を言わなきゃいけないよね。



 駐車場に出ると、前にトラックが止まって、隣のビニールハウスのおじさんが窓から顔を出した。



「どうだ? 大丈夫か? 歩けるなら大丈夫みたいだな」


「すみません。御迷惑おかけしてしまって。……颯太、皆、お前を探してくれたんだぞ」


「え?」


「行方不明って聞いて驚いてなぁ。たまに山奥行くと熊がでるから、襲われてやしないかって皆心配してなぁ」



 じゃあ、もしかして猛スピードで何台も道を走っていたのは……僕を探して?



「……ありがとうございました」



 優斗だけじゃない。


 皆に迷惑かけたんだ。



「ウチの坊主たちも探してたから、今度会ったら頭撫でてやってくれないか? ぐりぐり気持よかったって言ってたからさ」



 あのクリクリ兄弟のお父さんなのか!



「はい。……すみませんでした」



 おじさんは僕の頭をポンポンと叩くと、『じゃあな』と言って去って行った。



 色んな人に迷惑かけて、ホント、まだまだ僕はお子ちゃまだ。


 でも、今からは……きちんと大人にならなきゃ。



「あの……、ありがとうございました。帰りは一人で帰れますから」



 トラックに乗ろうとした優斗に言って、荷台のバッグを取ろうとしたが、その手を掴まれる。



「何言ってんだ? 帰れるわけないだろ?」


「帰ります」


「アホなこと言わないで早く乗れ」


「……大丈夫です。ありがとう」


「ふざけてんのか?」



 優斗が怒ってる。


 どうして?


 僕、怒られるようなこと言ってないのに……



「あんまり遅くなったら、奥さんが心配するよ? ……だから早く帰ってあげなよ。僕なんかにもう構わなくていいから」



 優斗の顔を見てきちんと言って、バッグを抱えた。


 何時間かかろうと一人で別荘に帰る決心をして歩き始める。



「この……っバカが!」



 優斗の声が背後で聞こえたと思ったら、体を抱きかかえられて荷台に乗せられた。



「ちょっと……! 下ろして!」



 怪我をしていないならすぐに荷台から下りれるのに、ぐるぐる巻きにされて曲がらない膝のせいでそれが出来ず……


 優斗は運転席に乗り、荒々しく車が動きはじめた!



「下ろしてってば! ねえ! こんなとこに乗せないで……っひゃあ!」



 ガタガタと揺れ、僕は体勢を崩して荷台の中で倒れる。


 縁に掛けてあるロープを持って体勢を低くする。


 ガタゴトと激しく揺れる荷台。



 優斗は怒っている。


 どうして怒るの?


 僕は気を利かせたんじゃないか。



 好きだって言う気持ちを封印して、きちんと、結婚した優斗を祝福しようって思える日が来るように努力しようって……



 そう思ったのに……



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